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???(ポンソンファ)    
 
鳳仙花  
    

詩: 金亨俊 (Kim Hyong-jyun,1887-1950) 韓国
      

曲: 洪 蘭坡 (Hong Nan-Pa,1898-1941) 韓国   歌詞言語: 韓国語


ウルミッテソン ポンソンファヤ
ネモヤンギ チョリャンハダ
キルゴキンナル ヨルムチョレ
アルムダプケ コッピルチョゲ
オヨップシン アガシドゥル
ノルルパンギョ ノラットダ

オオンガネ ヨルムカゴ
カウルパラム ソルソルプロ
アルムダウン コッソンイルル
モジルケド チムノハニ
ナッファロダ ヌルゴチョッタ
ネモヤンギ チョリャンハダ

プクプンハンソル チャンパラメ
ネヒョンチェガ オプソヂョド
ピョンファロウン クムルクヌン
ノエホヌン イェイッスニ
ファチャンスロン ポムパラメ
ファンセンキルル パラノラ

#カタカナ表記では正確には表せませんが一応原詩も書いておきます
垣根の下の 鳳仙花よ
おまえの姿は 悲しげだ
長い長い 夏の日に
美しく 花咲く時には
可愛らしい 娘らが
おまえを喜んで 遊んだ

いつしか 夏は行き
秋の風 そよそよと吹き
美しい 花びらを
酷くも 痛めつけ
花散り 枯れてしまった
おまえの姿が 悲しげだ

北風に寒雪 冷たい風に
おまえの姿が なくなっても
平和な 夢をみる
おまえの魂は ここにあるから
のどかな 春風に
よみがえることを 願うよ



朝鮮・韓国の歌というと、「冬のソナタ」からの韓流ブーム以前からあった「カスマプゲ」なんかの韓国歌謡・演歌とK-POPのブームを別にすると、あとはサムルノリやパンソリなどの伝統音楽くらいしか日本には紹介されておらず、特に歌曲にいたっては在日の歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さんや李政美(イ・チョンミ)さんなどが少し歌っているくらいでほとんど無視されているのではないでしょうか。でもそれは日本の音楽を紹介するのに伝統邦楽と古賀メロディーとモーニング娘くらいしか取り上げられていないというのと同じ奇妙な状態なのです。まあ同じ日本人に対してさえも日本の歌曲は一部の有名曲以外は忘れ去られているが如き状況を思えばむべなるかな、とも思えなくもないのですが、今年は日韓交流40周年ということでもあるようですし、互いの国の相互理解のためには相手の国の文化・芸術をもっと知るのも意味があるのでは、ということで1曲取り上げることにしました。
かの地では知らぬ人はいないという名曲中の名曲です。朝鮮近代音楽の父ともいえる洪蘭坡(ホン・ナンパ)は、作曲家・ヴァイオリニスト・音楽評論家・指揮者・文学者と多面的な活躍をした人ですが、そんな彼は1919年の3・1抗日独立運動を留学中の日本で聞き、居ても立ってもいられずに大切なヴァイオリンを質に入れてまでその独立運動を支援する活動を行ったのでした。ご承知の通りこの独立運動は実ることなく、また洪自身も学校を中退し帰国せざるをえない羽目になりました。
その翌年、彼は短編小説集「処女魂」を発表しますが、その前書きに載せられた楽譜がこの曲でした。その時はヴァイオリン独奏曲で、題名も「哀愁」というものだったようですが、1926年に作曲者の友人・金享俊(キム・ヒャンジュン)が詩をつけ、現在知らている歌曲となりました。まるで演歌のような哀調あふれる旋律もそういわれてみるとヴァイオリンにぴったり。まさに挫折の只中にあった彼の心象風景でしょうか、胸を打つメロディです。
詩は四季のうつろいを鳳仙花に寄せて歌っていますが、実は秋風吹いて以降の節は国を滅ぼされた民族の悲しみを、そして厳しい時代にも負けない不屈の魂を陰に表しています。

この曲が広く知られ・歌われるようになったのは1941年、ソプラノ歌手の金天愛(キム・チョネ)が東京での新人音楽祭でのアンコールで歌い、翌年帰国してからも各地で歌い続けるようになってからだといいます。警察から歌唱禁止令が出たのもこの頃だといいますからブレイクしたのもこの頃なのでしょう。

皮肉なことにこの少し前、作曲者の洪は度重なる官憲の圧力に親日芸術家の道を選んでいました(そうしなければ活躍の場さえも得られなかったのでしょうし、実は彼が40台はじめの若さで亡くなったのも官憲による拷問の後遺症があったとも言われています)。そしてこの曲が広く民衆の間に歌われることを知ることなく世を去りました。

今でもそのときの対日協力活動をあげつらわれて反民族主義者として糾弾されることがあるそうなのですが、韓国・朝鮮の多くの人たちはそんな政治的・イデオロギー的なこととは関係なく彼の残した音楽を愛しているのだと思いたいです。もう1曲大変有名な童謡「故郷の春(コヒャンウェ ポム)」共々、永遠に残る音楽を書いた人として、そして当時の日韓関係の不幸な犠牲者のひとりとして日本の人にももっともっと知っていただく価値はあるでしょう。

クラシック音楽系の歌手で私が聴いたことがあるのは、ソプラノのスミ・ヨーがフィルハーモニア管弦楽団をバックに故郷・韓国の歌を歌ったもの(Decca)くらいですが、金天愛につながるソプラノ歌曲の系譜として味わい深く聴けました。むしろポピュラー系の歌手の方が取り上げることは多いようで、演歌歌手のヤン・スギョンや加藤登紀子の入れた録音の方が日本では容易に聴けるでしょうか。確かに歌いよう・聴きようによっては演歌そのもののようにも、クラシック歌曲のようにも聴こえる不思議な曲でもあります。
参考文献に挙げた「韓国 歌の旅」では、やはり在日歌手の姜春美(カン・チュンミ)さんが歌った10曲の韓国歌曲・歌謡が収められていて、韓国の歌を俯瞰的に知るという意味ではお勧めです。民謡の「アリラン」からこんな歌曲、さらには「サランヘ」みたいな歌謡曲まで多彩な選曲です。


参考文献
「鳳仙花―評伝・洪蘭坡」 遠藤 喜美子(著) 文芸社
「韓国 歌の旅」 安 準模(著) 前田 真彦(訳) 白帝社

( 2005.05.08 藤井宏行 )


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