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千鳥の曲    
 
 
    

詩: 不詳 (Unknown,-)   &  源兼昌 (Minamoto no Kanemasa,12世紀-) 
      

曲: 吉沢検校 (Yoshizawa Kengyo,1808-1872) 日本   歌詞言語: 日本語


しほの山、差出の磯に住む千鳥、君が御代をば八千代とぞ啼く
                  『古今集』より:読み人知らず


淡路島、かよふ千鳥のなく声に、いく夜寝覚めぬ須磨の関守
                  『金葉集』より:源兼昌

塩山の差出の磯に住む千鳥は、君がいつまでも健やかであるようにと啼いている



淡路島へ渡る千鳥の啼く声に、須磨の関の番人は何度目を覚ましたことであろうか



 八橋検校の純器楽曲「六段」と並び広く親しまれる純筝曲。歌詞として和歌が
二首用いられています。雅楽風の静的な短い前奏曲のあとに『しほの山・・・』
が詠われ、器楽の間奏曲である動的な「手事(てごと)」をはさみ『淡路島・・
・』が詠われて終わります。川の水の流れや千鳥の羽ばたきを表現するかのよう
な華麗な「手事」は、琴という楽器の魅力を堪能させてくれます。
 江戸時代を代表する作曲家であるという八橋検校に興味を持って聴いてみたC
Dに、たまたま入っていたので耳にしたのですが、ゆるやかに詠われる雅やかな
古典詩と技巧的な器楽の交替は変化に富んでいて聴き応えがあります。最近、ハ
ーフィズやサアディの詩を用いたペルシア古典音楽をよく聴いていて、その訳も
試みようと思っているのですが、一級の古典詩の朗唱と技巧的な器楽の演奏が組
み合わされる点で共通点があり、興味深く思い取り上げることにしました。この
ような、声楽曲と器楽曲が融合した形式はクラシック音楽より、ヴォーカルとギ
ターソロの交替するロックミュージックを思わせるものがあります。
 「しほの山」「さしでの磯」は山梨県にある名勝「塩山」の「差出の磯」で、
内陸部ですから磯といっても海ではなく川岸のこととなります。「淡路島・・・
」は百人一首に選ばれている有名な作。その後吉沢検校は古今集のみを複数歌詞
として「春の曲」「夏の曲」「秋の曲」「冬の曲」を作曲しており、「千鳥の曲
」と合わせて「古今組」と呼ばれているそうです。いずれこれも聴いてみたいと
思います。

演奏は唄:山岸雅昇、筝:中島靖子(CBSソニー32DG68)。琴の音色が非常に美し
く録音されていて愉しむことが出来ます。

検校(けんぎょう):近世幕末までの盲人に与えられた官位の最高位。平家琵琶
・琴・三絃・地歌・胡弓の演奏、教授は盲人の専業種と定められ、健常者は排除
されていた。

( 2005.04.17 甲斐貴也 )


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