宿 酔 |
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朝、鈍い日が照つてて 風がある。 千の天使が バスケットボールする。 私は目をつむる、 かなしい酔ひだ。 もう不用になつたストーヴが 白つぽく銹びてゐる。 朝、鈍い日が照つてて 風がある。 千の天使が バスケットボールする。 |
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酒飲みには実感ある詩ですね。「千の天使がバスケットボール」のくだりは二日酔いでガンガンする頭を描写して実に見事。
とは言いながら、これは何かを忘れたいために否応なく飲んでしまった悲しい酒でしょうか?
だから、もしこれにおどけたメロディーをつけたら多分台無しになるでしょう。
(というよりも、中也の詩それ自体がひとつの「音楽」になっているので、安易に曲を付けると詩の力にメロディーが負けてしまう。詩人の相澤啓三さんが「中也の詩は、表面的な音楽性にもかかわらず、詩が音楽の鼻面をとってひきまわすような結果となるのが、いかにもおかしい」とそんなことを書いていたのだそうですがまさにそんな感じの歌がけっこうあります)
この詩にチャレンジしたのはフォーク界の大御所、小室等さん。
怒ったような、叫ぶような曲調が詩の雰囲気をうまく捉えています。
山口市にある中原中也記念館ではこの10年あまり、中原中也の詩につけた歌をジャンルを問わずさまざまなミュージシャンに委嘱して4月29日の中也生誕祭に紹介しているのだそうですが、その中からいくつかを選んで収録したCD「サーカス」を発売しています。その中にある魅力的なうたの中のひとつがこれです。
ギターを爪弾きながらつぶやくように、語るように歌う小室さんの声に、伴奏のバイオリンが絡んでとても素敵なうたになりました。彼はこの詩だけでなく、「曇天」と「サーカス」という有名な詩、それに「丘の上さ上がって」と全部で4曲をこのCDに収めています。いずれも一聴の価値はありではないかと。中也の詩を愛する方はぜひ入手して聴いてみてください。
( 2005.04.11 藤井宏行 )