甘たるく感傷的な歌 立原道造による四つの歌 |
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その日は 明るい野の花であった まつむし草 桔梗 ぎぼうしゆ をみなへしと 名を呼びながら摘んでゐた 私たちの大きな腕の輪に また或るときは名を知らない花ばかりの 花束を私はおまへにつくってあげた それが何かのしるしのやうに おまへはそれを胸に抱いた その日はすぎた あの道はこの道と この道はあの道と 告げる人も もう おまへではなくなった 私の今の悲しみのやうに 叢には 一むらの花もつけない草の葉が さびしく 曇って そよいでいる |
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別宮貞雄さんというと、フランスに留学してミヨーやメシアンに学んだことがある人なのだそうですが、歌曲の雰囲気は新ウイーン楽派風の冷たく研ぎ澄まされた感じの曲が多いように思います。
トロトロの旋律美はあまりありませんが、無調に近付いているそのスタイルも決して退屈ではなく、ほのかに香るロマン派の残滓がベルクやウエーベルンの歌曲を思わせる上に、この冷徹なロマンに日本語の繊細な詩の言葉を乗せて歌われるのは大変不思議な味わいです。見事なリズムとイントネーションの処理と共に日本歌曲においても独特の魅力を醸し出しているよう作品群ではないでしょうか。
同じ繊細さでも中田喜直さんの歌曲のようなポピュラリティが得られる作品ではありませんが、日本の歌曲を語る上では外せない人のひとりだと私は思います。そういえば加藤周一さんの詩になる「さくら横ちょう」はおニ人とも作曲していましたっけ(米良美一さんの録音で両方聴けます)
この歌はそれでも珍しく耳になじみやすいメロディの伴奏を持った佳品です。
それは立原道造の詩のタイトル通り「甘たるく感傷的な」ムードを、マスネやアーンの書いたひたすら甘いメロディを模してキッチュに表現しているから。こんな曲はフランス仕込み、というのも分かるような感じもしますが、立原の詩同様、通俗の装いをしながらも気品をきっちりと保っているところが詩人との相性ぴったりです。
録音は鮫島さんの「日本歌曲選集2」(Denon)より。他にも別宮作品が5曲聴けます。大手拓次、中原中也、立原道造、三好達治といった大詩人の詩に付けた印象的な曲ばかりです。
夭折したロマンチスト・立原道造の詩になる歌曲はいろいろな人がいろいろな詩を取り上げて書いており一度きちんと取り上げたいものです。あと何曲かアップしたら詩人別コーナーにも入れますので、皆さんの思い入れの曲もあれば教えて頂けると嬉しいです。
( 2005.01.06 藤井宏行 )