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東京小景    
 
 
    

詩: 大田黒元雄 (Ootaguro Motoo,1893-1979) 日本
      

曲: 團伊玖麿 (Dan Ikuma,1924-2001) 日本   歌詞言語: 日本語


詩:著作権のため掲載できません。ご了承ください


鮫島有美子さんの「日本歌曲選集2」、山田一雄さんの他には團伊玖麿、別宮貞雄両氏の作品が収録されています。いずれも曲も演奏も素晴らしいので取り上げてみることにしましょう。團作品は北原白秋による作品が4曲と、そしてこの日本に初めてストラヴィンスキーやドビュッシーを紹介したとして著名な音楽評論家、大田黒元雄氏の書いた短歌に付けた「東京小景」です。この作品、
1.駿河台(ニコライ堂の秋の情景)
2.日比谷(日比谷公園の宵。恋の世界)
3.銀座(銀座の相合傘の恋物語)
4.人形町(女2人ひそやかに歩く)
5.よし町(柳にそぼ降る雨)
6.上野(動物園のゾウを見つめる障害を持った子の暗いまなざし)
7.両国(玉屋・鍵屋の花火の情景)
と、古き東京の情緒を美しく描写しています(カッコ内は私の勝手な要約)。私も生まれてから20数年は東京に住んでいたのですが、下町の方にはあまり行ったことがないのと、オリンピック&高度成長のあとの東京はここで歌われたような江戸から続く文化の香りを失っていたような気がしますのであまり実感のない情景ではあります。駿河台というと予備校とディスクユニオンを私はすぐ連想してしまいますし、日比谷や銀座の恋の物語、というのもバブル以来品のないギャグの世界になってしまいました。両国の花火大会はまだあると思いますが、「玉屋〜」なんて叫んだら馬鹿みたいでしょうね。
そんな古き良き東京の情景に、團さんは何を思ったかフランス情緒香るシャンソン風のメロディを付けました。モンパルナスの情景を歌にしたプーランクのような瀟洒な世界がそこには広がっています。ただそれは昔の情緒。近代化した都市が失ってしまったものでしょう。
鮫島さんの盤には、第6曲「上野」を除く6曲が収められています(この曲、今ではちょっと歌詞の一部に差別的なニュアンスが感じられて取り上げにくい状況になっているのですね 放送禁止用語と同じです 関定子さんの録音でもこれだけ省かれていました)。失われし情景をいつくしむかのようなその味わいはすべての都会人が聴く価値あり。日比谷や銀座の愛の情景が特に素敵です。

最終曲「両国」には米良美一さんの録音もありました。これも昔を懐かしむようなしっとりとした歌が聴きものです。子供のころわくわくしながら行った花火大会の光景がよみがえりました。

( 2005.01.06 藤井宏行 )


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