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Die Herbstfeier    
 
秋の宴  
    

詩: メーリケ (Eduard Friedrich Mörike,1804-1875) ドイツ
    Gedichte  Die Herbstfeier

曲: 山田耕筰 (Yamada Kousaku,1886-1965) 日本   歌詞言語: ドイツ語


Auf! im traubenschwersten Tale
Stellt ein Fest des Bacchus an!
Becher her und Opferschale!
Und des Gottes Bild voran!
Flöte mit Gesang verkünde
Gleich des Tages letzten Rest,
Mit dem Abendstern entzünde
Sich auch unser Freudenfest!

Braune Männer,schöne Frauen
Soll man hier versammelt sehn;
Greise auch,die ehrengrauen,
Dürfen nicht von ferne stehn;
Knaben,so die Krüge füllen,
Und,daß er vollkommen sei,
Treten zögernd auch die stillen
Mädchen unserm Kranze bei.

Noch ist vor der nahen Feier
Süß beklommen manche Brust,
Aber weiter bald und freier
Übergibt sie sich der Lust.
Taut euch nicht wie Frühlingsregen
Lieblicher Gedankenschwarm?
Erdenleben,laß dich hegen,
Uns ist wohl in deinem Arm!

さあ! 葡萄たわわなこの谷で
バッカスの祝宴を開こう!
盃をここに 供物の鉢を
そして神の像を前に据えよ!
歌と笛は告げる
昼があとわずかであることと
夕星が我らの喜びの祭りに
明かりを灯すことを!

褐色に焼けた男たち 美しい女たち
その全てを呼び集めよ
敬われる白髪の老人たちも
遠ざけていてはならない
少年たちは壺に酒を注ぎ
恥じらいながら静々と歩む
娘たちが我らの周りに輪になって
祭りは完全なるものとなる

祭りを目前にして
人々の胸は甘く締め付けられる
もうあと少しで遠慮なく
喜びに身を委ねられるのだ
春の雨のように魅惑するこの熱い思いに
だれが心奪われずにいられよう
大地の生命よ 我らを抱け!
我らは喜んでその腕に身を任せる


ベルリン王立高等音楽学校の卒業制作として1912年に作曲されたドイツ語のカンタータです。1918年カーネギーホールにおいて英訳詩で作曲者指揮により初演された時は、150人の混声合唱と管弦楽で英訳詞により初演されたという大規模な作品(但し演奏時間はCDで6分ほど)。わが国の洋楽黎明期の記念碑的作品と言えるでしょう。
 歌詞に使われているメーリケの詩” Die Herbstfeier”の原詩は15連からなる長大なもので、山田はそのはじめの三連に作曲しています。バッカスの名が出てくることですぐわかりますが、ギリシャ神話を題材とした詩です。本当は「秋の祭り」と訳したかったのですが、作曲者自身の訳に逆らうわけにもいきませんので「秋の宴」としました。
面白いのは、大きく省略されたこの後ではかなりエロティシズムにも言及されていることです。第三連の内容からその後のそういった展開も読み取れなくもないでしょう。省略の理由に、音楽上以外に詩の内容も絡んでいるのではないかなどという空想も働きますが、この作品を鑑賞するにあたっては、もともとキリスト教徒でない大方の日本人には全く抵抗のない「八百万の神」を崇める素朴な大地讃仰と読めば良いのでしょう。そのうち時間があったら残り十二連もご紹介したいと考えています。
 山田のつけた音楽は平明で親しみやすいもの。近年生田美子氏によりピアノ伴奏に編曲された楽譜が出版されました。CDはわが国声楽界の重鎮畑中良輔氏の指揮する日本合唱協会と編曲者生田氏のピアノ伴奏による、ドイツ語テキストを使用した初演の録音があります(フォンテック)。畑中氏はその出版に尽力され、楽譜には畑中氏の訳になる日本語訳の歌詞もついているとのことです。演奏も作品の良さを知るに十分な熱演です。
「日本の合唱百年〜四つの時代」と題されたこのCDにはこの作品の他、瀧廉太郎、信時潔、下總皖一、高田三郎、新実徳英、下總皖一らの傑作が収められ、日本の合唱音楽の歴史を俯瞰することができるプログラムになっています。

( 2004.12.21 甲斐貴也 )


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