Nachts Op.62-20 Das Holdes Bescheiden |
夜に 歌曲集「善き慎み」 |
Horch! auf der Erde feuchtem Grund gelegen, Arbeitet schwer die Nacht der Dämmerung entgegen, Indessen dort,in blauer Luft gezogen, Die Fäden leicht,unhörbar fließen Und hin und wieder mit gestähltem Bogen Die lust’gen Sterne goldne Pfeile schießen. Im Erdenschoß,im Hain und auf der Flur, Wie wühlt es jetzo rings in der Natur Von nimmersatter Kräfte Gärung! Und welche Ruhe doch und welch ein Wohlbedacht! Mir aber in geheimer Brust erwacht Ein peinlich Wiederspiel von Fülle und Entbehrung Vor diesem Bild,so schweigend und so groß. Mein Herz,wie gerne machtest du dich los! Du schwankendes,dem jeder Halt gebricht, Willst,kaum entflohn,zurück zu deinesgleichen. Trägst du der Schönheit Götterstille nicht, So beuge dich! denn hier ist kein Entweichen. |
聞け! 大地の湿った奥底で 黎明に向け夜が力を振り絞る その間に蒼い大気は移ろい 軽やかな糸のように音もなく流れてゆく そして時に気まぐれな星たちが 鍛えた鋼の弓で黄金の矢を射る 大地の胎内で 木立の中で そしてまき場で 今や自然界のすべては蠢き 飽くことなしに力強くたぎる! そしてそれはなんと穏やかで秩序正しいことか! だがこの無言の崇高な光景の前で 私の胸の内に密かに目覚めるのは 充足と渇望の悩ましいせめぎあいだ 喜しげに自らを解き放つわが心よ! 拠って立つすべてが崩れ お前は戸惑い願う なんとかして逃れ 同類たちのところに帰りたいと この神聖な静寂の美に耐えられないのなら ひざまずくがいい! ここに逃げ道はないのだ |
これも詩集には収められていない詩ですが、第二連後半の五行以外の部分は長編小説『画家ノルテン』にほぼそのまま使われています。その劇中劇『オルプリートの最後の王』の第四景での王ウルモンの台詞で、第一連が同じく『善き慎み』の第三曲である「ある夜の二人の歌」の前に置かれ、第二連(の前半七行)がその後となっています。
わたしは最初このことに気付かずに偶然続けて訳していたのですが、なるほど夜の大地の力など共通したモチーフが使われています。しかし独立した詩として重要なのは、『画家ノルテン』に使われたものにはない最後の五行であることは言うまでもありません。
第六曲「テックにて」と共通した、自然への洞察や畏敬をだれよりも持ちながら、また人間としての煩悩も捨てることが出来ない詩人の苦悩を表現した詩ですが、これがメーリケという詩人の本質・特質であり、シェックの歌曲集『善き慎み』の本当のテーマなのではないかと思いました。
シェックの作曲は非常にファンタスティックで、曲集中でも魅力作のひとつと思います。演奏は幸いにもグリュンマー、フィッシャー=ディースカウという名歌手の雄弁な名唱が聴けますが、イエックリンの全集におけるボストリッジの歌唱は、夜の神秘と静けさを表現して余すところがありません。
( 2004.12.17 甲斐貴也 )