Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen Italienisches Liederbuch |
あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの イタリア歌曲集 |
Ich hab' in Penna einen Liebsten wohnen, In der Maremmenebne einen andern, Einen im schönen Hafen von Ancona, Zum Vierten muß ich nach Viterbo wandern; Ein andrer wohnt in Casentino dort, Der nächste lebt mit mir am selben Ort, Und wieder einen hab' ich in Magione, Vier in La Fratta,zehn in Castiglione. |
あたし、ペンナに住んでる恋人がいるの、 マレンマの平野にも一人いるし、 アンコーナの素敵な港にだって一人いるわ、 四人目はヴィテルボまで行かなきゃなんないけどね。 カセンティーノの方にはさらに一人いて、 もう一人はあたしと同じ町にいるのよ。 それでもって、マジョーネにもう一人いて、 ラ・フラッタには四人、カスティリオーネには十人もいるんだから。 |
モーツァルトの「ドン・ジョヴァンニ」中のレポレッロのアリア「カタログの歌」の女性版と言われるが、この女性、文字通りにとらえれば現在21股をかけていることになる。
しかし、「恋人」といってもおそらくは「友人」どまりで、目の前の彼氏の嫉妬心をかきたてて喜んでいるだけではないか。
あるいは過去の男性遍歴を披露して、浮気男に対抗しているといったところか。
ちなみにペンナ、マジョーネはウンブリア州(ペルージャがある)、マレンマ、カゼンティーノはトスカーナ州(フィレンツェがある)、アンコーナはマルケ州、ヴィテルボはラツィオ州(ローマがある)、そしてカスティリオーネはエミーリア=ロマーニャ州(ボローニャがある)の町で、イタリアの随分離れた方々の町に恋人を作ったことが分かる(ラ・フラッタについてはそれらしい町がイタリアに多数あり、分からなかった)。
急速なテンポで早口に歌われ、1分に満たない短い曲だが、ピアノの技巧的で華麗な後奏がついており、曲集のしめくくりにもってこいだ。
ジェラルド・ムーアが、自伝の中で、この華麗な後奏を省いてくれないと私への拍手が興ざめになってしまうと言った女性歌手の例を紹介していたが、それほどピアニストにとっても最高の見せ場(聴かせどころ)になっている。
鮫島由美子&スコウフスの全曲コンサートでは、この曲の後奏をドイチュが見事に弾き終えると同時に会場のライトをいったん落として真っ暗にするという演出がなされ、簡素ながら効果的だった。
マティス&エンゲル:マティスは懸命でまっすぐな姿勢と魅力的な美声で堂々と締めくくる。エンゲルの彫りの深い巧みな技術と音楽性は最後まで一貫していた。
ボニー&パーソンズ:まろやかで粘りもあるボニーの歌は華があり、パーソンズの高いテクニックは複雑なピアノ・パートを理想的に再現していた。
アップショー&ドイチュ:アメリカ人らしい明朗なアップショーの声は、曲集の開放的な側面を浮き彫りにしてくれた。ドイチュは堅実に作曲者の意図を再現したが、ピアニスティックな魅力も味あわせてくれた。
アーメリング&ゲイジ:このような急速な曲であろうと常に言葉をおろそかにしないアーメリングの繊細な語りかけはヴォルフの理想的な演奏を実現している。ゲイジはペダルをたっぷり使って、豊富な音色で聴かせてくれた。
シュヴァルツコプフ&ムーア:変幻自在に声を変化させることにかけてシュヴァルツコプフは独自の存在だった。ムーアは作曲家の意図を適切に消化し、それを敏感に演奏に反映させていた。
「たとえ太陽がイタリアにまで照りわたっているとしても、これらの曲の心臓はドイツ的に鼓動している」(西野茂雄訳)というエーミール・カウフマン宛てのヴォルフの手紙がこの歌曲集の特性を言い表している。「スペイン歌曲集」にスペイン舞曲のリズムや楽器の響きが聴こえてきたのとは対照的だが、その普遍性ゆえに今まで多くの歌手、ピアニスト、そして音楽愛好家たちから愛され続けてきたのだろう。
どの曲も1、2分、長くても4分ほどの小品だが、その中身は昔から変わらない人間の様々な感情、行動の宝庫になっている。
まさに「小さくてもうっとりとさせられるものはある」ことをあらためて実感させられる歌曲集である。
最後に、今回参考にした「イタリア歌曲集」の録音のうち、全曲盤をご紹介しておきます。
1)Irmgard Seefried(S)Dietrich Fischer-Dieskau(BR)Erik Werba(P):1958年録音(ザルツブルク・ライヴ):ORFEO:C 220 901 A
2)Irmgard Seefried(S)Dietrich Fischer-Dieskau(BR)Erik Werba(P)Jörg Demus(P):1958年:DG:435 752-2
3)Erna Berger(S)Hermann Prey(B R)Günther Weissenborn(P):女声は1959年。男声は不明(LP):VOX:SLDL 5532
4)Elisabeth Schwarzkopf(S)Dietrich Fischer-Dieskau(BR)Gerald Moore(P):1965〜1967年:EMI:CDM 7 63732 2
5)Elly Ameling(S)Gérard Souzay(BR)Dalton Baldwin(P):1967(男声)&1969年(女声):PHILIPS:442 744-2
6)Christa Ludwig(MS)Dietrich Fischer-Dieskau(BR)Daniel Barenboim(P):1974(男声)&1975年(女声):DG:POCG-9013/9021
7)Edith Mathis(S)Peter Schreier(T)Karl Engel(P):1976年(LP):DG:2707 096
8)Elly Ameling(S)Tom Krause(BR)Irwin Gage(P):1980年:GLOBE:GLO 2-5008
9)Ruth Ziesak(S)Andreas Schmidt(BR)Ulrich Eisenlohr(P)Rudolf Jansen(P):1990年:RCA VICTOR:09026-60857-2
10)Barbara Bonney(S)Håkan Hagegård(BR)Geoffrey Parsons(P):1992年:TELDEC:9031-72301-2
11)Felicity Lott(S)Peter Schreier(T)Graham Johnson(P):1993&1994年:Hyperion:CDA66760S
12)Dawn Upshaw(S)Olaf Bär(BR)Helmut Deutsch(P):1995年:EMI CLASSICS:7243 5 55618 2 4
13)Soile Isokoski(S)Bo Skovhus(BR)Marita Viitasalo(P):2001年:ONDINE:ODE 998-2D
14)Christiane Oelze(S)Hans Peter Blochwitz(T)Rudolf Jansen(P):2002年:BERLIN Classics:0017482BC
上記のほかに、シュミットヒューゼン達の録音、ファン・リアー&ホル&ルッツの録音があったと思いますが、入手していないので今回の聴き比べに加えることが出来ませんでした。
今回全曲の聴き比べをしてみて、上の各々の録音がそれぞれの特色を持っていて、しかも抜粋盤の中にも素晴らしい演奏が多くあり、本当に楽しい時間を過ごせました。
あくまで私の判断ですが、ここで格別に素晴らしかった演奏家として、女声はエディット・マティス、男声はヘルマン・プライ、ピアノはカール・エンゲルを挙げておきたいと思います。
ヴォルフの名手と呼ばれる人達の独壇場とならないのが、この歌曲集の独自性を物語っていると思います。
( 2004.11.27 フランツ・ペーター )