寄生蟹のうた 沿海三部作 |
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潮みづのつめたくながれて 貝の齒はいたみに齲ばみ酢のやうに溶けてしまつた ああここにはもはや友だちもない 戀もない 渚にぬれて亡靈のやうな草を見てゐる その草の根はけむりのなかに白くかすんで 春夜のなまぬるい戀びとの吐息のやうです。 おぼろにみえる沖の方から 船人はふしぎな航海の歌をうたつて 拍子も高く楫の音がきこえてくる。 あやしくもここの磯邊にむらがつて むらむらとうづ高くもりあがり また影のやうに這ひまはる それは雲のやうなひとつの心像 さびしい寄生蟹(やどかり)の幽靈ですよ。 |
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沿海三部作
( 2017.02.11 藤井宏行 )