暁に祈る |
|
あああの顔で あの声で 手柄頼むと 妻や子が ちぎれる程に 振った旗 遠い雲間に また浮かぶ ああ堂々の 輸送船 さらば祖国よ 栄えあれ 遥かに拝む 宮城の 空に誓った この決意 ああ軍服も 髭面も 泥に塗れて 何百里 苦労を馬と 分け合って 遂げた戦闘(いくさ)も 幾度か ああ大君の 御為に 死ぬは兵士の 本分と 笑った戦友(とも)の 戦帽に 残る恨みの 弾丸(たま)の跡 ああ傷ついた この馬と 飲まず食わずの 日も三日 捧げた生命 これまでと 月の光で 走り書き あああの山も この川も 赤い忠義の 血がにじむ 故国(くに)まで届け 暁に あげる興亜の この凱歌 |
|
昭和15年の映画「暁に祈る」の主題歌として大ヒットし、広く歌われました。映画は戦地に向かう牧場の牧童と軍馬として徴用された馬も登場しますので、馬の活躍も歌に織り込まれています。あまりに悲壮すぎるそのメロディは厭戦、あるいは反戦のメッセージさえ読み取れるほどで、まだ戦況的には余裕のあったこの年に、こんな音楽を書いた古関のセンスに敬服することしきりです。野村俊夫も、古関裕而もたくさんの曲を遺しましたが、このコンビで作った曲の中ではこの曲が不朽の代表作と言えるでしょう。こんな歌が「隣国を攻めてやるぞ」なんてメンタリティから出て来ることはないでしょうから。
( 2017.02.05 藤井宏行 )