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Sigh no more,ladies,sigh no more    
 
溜息なさるな。淑女の方々  
    

詩: シェイクスピア (William Shakespeare,1564-1616) イングランド
    Much Ado about Nothing (空騒ぎ) Act.2 Scene.3 Sigh no more,ladies

曲: コーツ (Eric Coates,1886-1957) イギリス   歌詞言語: 英語


Sigh no more, ladies, sigh no more,
Men were deceivers ever;
One foot in sea and one on shore;
To one thing constant never.
Then sigh not so,
But let them go,
And be you blithe and bonny;
Converting all your sounds of woe
Into Hey nonny, nonny.
Then Sigh no more

Sing no more ditties, sing no more,
Of dumps so dull and heavy;
The fraud of men was ever so
Since summer first was leavy.
Then sigh not so,
But let them go,
And be you blithe and bonny;
Converting all your sounds of woe
Into Hey nonny, nonny.
Then Sigh no more

溜息なさるな。淑女の方々。溜息なさるな。
男共は永遠のうそつき。
片足は海に、もう片足は岸に、
ひとところに留まることなど決してない。
だから溜息をつかず、
行かせておやりなされ
そしてあなたがたは元気に、たくましく
嘆きの言葉はやめにして
陽気に歌おう、ヘイ、ノンニ、ノー
だからもう、溜息なさるな。

歌いなさるな、淑女の方々。悲しい歌を
暗く、重たいその嘆きを
初めて夏に青葉が茂った頃から
女を騙すのは男の習い
だから溜息をつかず、
行かせておやりなされ
そしてあなたがたは元気に、たくましく
嘆きの言葉はやめにして
陽気に歌おう、ヘイ、ノンニ、ノー
だからもう、溜息なさるな。

「ペルシャの市場にて」の作曲者ケテルビーと並んで、イギリス・ライトクラシック界の大御所として君臨していたエリック・コーツは日本ではあまり知られていないかも知れませんが、結構素晴らしい歌曲をたくさん残しています。歌曲集としてのCDもMarco Poloのエドガー・ウィルソン(Ten)盤と、ASVのクック(Bar)盤の2枚があります。
一言でいえば、彼は「イギリスの中田喜直」とでも言える作風なのではないかと思います。自然なメロディ・優しい響き・そしてどこか懐かしさを感じさせる詩の選択、どれを取ってもイギリス音楽のファンの方には気に入って頂ける筈なのですが、音楽マスコミの影響か、こういうライトな世界はほとんど無視されているのが大変残念な限りです。

ここに取り上げた曲は、Marco Polo盤の方に収録されている、シェークスピアの詩にメロディを付けた佳品です。歌は喜劇「から騒ぎ」の第2幕第3場、領主ドン・ペドロお抱えの楽士バルザザーが歌う劇中歌で、劇はこのあとヒロインのヒーロー(洒落ではなくて本当にこの名前なのです)が、悪者の罠にはまって浮気者の濡れ衣を着せられ、まさに歌の逆を行く展開、シェイクスピアのウインクする顔が目に見えるようです。それからするとこの歌は面白おかしく、皮肉たっぷりに歌われるのが劇の筋に合っている訳ですが(事実そういうスタイルで作られた曲も多くあります)、このコーツの作品は大変上品な歌に仕上がっています。擬古典的な典雅な伴奏の上で、ささやくように優しく歌うテナー、シェークスピア特有の言葉遊び「Hey nonny,nonny no」という面白い響きのクライマックスのあとで、原詩にはない繰り返し「だからもう、溜息なさるな。(Then Sigh no more)」をそっとささやいて歌を終えるところなど実にグッと来ます。コーツの曲ではこんな典雅なものから、愉快な冒険談のバラード「擲弾兵」まで多彩ですので、ライトなものはクラシックじゃないとかいって遠ざけないで下さい。エルガーの歌曲と比べても決して遜色のない美しい作品群が聴けるはずです。

1999.10.10 (2003.4.18 シェイクスピア特集にあわせ改訂)

( 2003.04.18 藤井宏行 )


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