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英霊讃歌    
 
 
    

詩: 乗杉嘉壽 (Norisugi Yoshihisa,1882-1947) 日本
      

曲: 橋本國彦 (Hashimoto Kunihiko,1904-1949) 日本   歌詞言語: 日本語


(一)
 聖天子 風電の御稜威(みいつ)いただき
 艨艟(もうどう) 日日に(まも)る 一万里
 将士 夜夜に固む 海と空。

 海原遠く 年を経て
 (いこい)もしらぬ 防人よ。

 (たけ)る嵐も 犯すなき
 (しこ)の御楯の 防人よ。

 皇御民(すめらみたみ)の 末ながく
 語りつぎ 言ひつぎ行かん
 数限りなき 益良夫(ますらお)の かたき勲ぞ。


(二)
 とりわきて 大日本帝国
 連合艦隊司令長官
 元帥 山本海軍大将
 (かしこ)きや (みこと)かがふり 出でまして
 年は移れり 春二つ。

 東に西に 北南
 はた大空に 海底(うみそこ)
 善謀勇戦
 征けば 必ず勝ち
 攻むれば 必ず破る。

 たたえん たたえん
 その勲功(いさおし)や 蓋し神なり
 たたえん たたえん。


(三)
 計らざるに 兇報はいたりぬ
 過ぐる 四月(うづき)の激戦に
 わが名将は いさましく
 南の空に 散華(さんげ)せられたりと
 まことに 青天の霹靂。

 人はみな 眼血走り
 息をば 呑みつ
 心はおもく とざされぬ。

 人はみな こぶし固めて
 歯をかみならし
 胸はおもいに 張りさけぬ。


(四)
 さはさりながら われ等みな
 心に問わん
 この兇事(まがごと)は 何をか語る
 皇国の興廃 ここにかかる。

 元帥の死は 何をか教うる
 国民(くにたみ)あげて ふるい起つ時。

 さらばみな いかにあらまし
 ああ われ等 誓いて起たん。

 元帥よ 心やすかれ
 われ等みな 撃ちてし止まん。

 君が御霊(みたま) 白き鳥
 青きみ空に 天翔(あまかけ)り 護り給え
 われ等みな 撃ちてし止まん
 必ずも 撃ちてし止まん。



戦後60年の2005年に日本の戦争にまつわる音楽をたくさん取り上げておりました頃に、ある御婦人の方よりお便りをいただいたことがあります。
女学生の時に歌った橋本國彦作曲の、山本五十六大将を追悼したカンタータ「英霊讃歌」についてご存じないかといった内容でした。
その時は全く何も情報がなく、それからずっと気にかかっては居たのですが、何と昨2015年、Victorよりリリースされた「戦後70周年特別企画 日本の軍歌アーカイブス」シリーズの第5巻に「戦時下の芸術音楽 1943」というタイトルでこの曲が収録されているのを偶然見つけることができたのです。山本五十六は1943年4月に戦死しましたが、この曲はその同じ年の10月にリリースされており、バリトンの藤井典明をソリストに作曲者自身の指揮による東京音楽学校管弦楽団と合唱団の演奏でした。作詞は同音楽学校の校長・乗杉嘉寿ですが、教育者としての力量はともかく、こと歌の詞を書くことに関してはちょっと力不足でしょうか。歌詞の方は何とも流れが悪いです。それを補って余りある橋本の才気はこの曲を結構聴きごたえのあるものにしています。

冒頭の重々しい管弦楽はプロコフィエフの映画音楽「アレクサンドル・ネフスキー」を連想してしまいました。続くリヒャルト・シュトラウス風のファンファーレに続いてテノールソロによるレシタティーヴォ。そのあと橋本らしい爽やかなメロディで合唱を伴って海軍の賛歌が始まります。歌詞はあまりぱっとしませんが音楽の勢いでけっこう聴かせてくれます。
続いての二部 再びテノールソロのレチタティーヴォで太平洋戦争の開戦が告げられます。「東に西に」から合唱がヴェルディ風のマーチで華やかに緒戦の勝利を歌って音楽を盛り上げます(この部分は繰り返されます)。
第三部は山本元帥の戦死をテノールが語りで告げ、続いて管弦楽が悲痛なハーモニーを奏でるのもお約束。慟哭の合唱はブラームスの音楽を思わせます。
第四部で彼の死を乗り越えてわれ等進んで行こうとテノールが語りかけ、合唱とソロとで掛け合いながら音楽は力強く盛り上がって行きます。「撃ちてし止まん」という戦時中おなじみのキャッチフレーズと共に。最後の管弦楽はマーラーの交響曲第2番のエンディングみたいでした。クラシックおたくであった私にはたいへん面白く聴けた作品でしたが、当時は橋本の才気が走り過ぎた深みのない曲だとかなり酷評されたようです。

作品が作品だけに、現代に復活することはまずあり得ない曲ですが、それだからこそこのSPを復刻してくれたVictorに感謝です。
お問い合わせ頂いた御婦人の方にも復刻されたことをお伝えし、昔懐かしいその音楽を73年振りに聴いて頂くことができました。

( 2016.10.02 藤井宏行 )


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