吹雪 |
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山の翁は市に来て 雪降る朝を酒買はで 顔うつくしき舞姫の 人形買ひて帰りけり 翁の家は一里半 人住む里へ道もなき ぶなの木しげる谷かげの 炭焼小屋のそれなりき いづこに生れいつよりか 其処に住みけむ一人とて 知る者もなき山住みの 翁を人はあやしみぬ 幾月ぶりに里に出て 得たるは日頃のさだまりの 酒にあらでこれはまた 翁にも似ぬ色ごのみ その日の夕べ狩人は 里遠からぬ山みちの 吹雪の中に倒れ伏す 翁をこそは見出たり 息たへぬれど両の手に しかと肌に押しあてて ぬくむるごとく人形を 離さでありし翁をば |
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昔の世界音楽全集(音楽の友社 昭和30年ごろ)の日本合唱曲集に載っていた作品。混声合唱のための曲です。ありがちな物語ですが、おじいさんが美しい人形を買って、その人形を抱いて吹雪に息絶えるというのが何とも言えない耽美感を醸し出しています。安倍の音楽からはあまりそんなところは感じられないですが。
( 2016.08.10 藤井宏行 )