鍬 |
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横なぐりの雨は 頬っぺたをはじく 腰から下はずぶ濡れ しびれた足にヒルが吸いつく 山裾の広い田圃に私一人 朝の暗い中から十二時間 一人前のこの鍬は 十五の私に重すぎる 疲れて... けれども私は帰れない 私の兄さんは牢やのなか その日から足掛三年 けれども私は悲しまない 私の振り上げるこの鍬は 牢やの兄さんへ一直線 牢やの兄さんへ一直線! |
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1932年(昭和7年) 吉田がプロレタリア音楽家として目覚める転機となった作品です。のちにピアノ伴奏の独唱曲となって組曲「道」の中に入れられましたが(1946)、初演では男声合唱付きのアルト独唱曲として発表されたようです。詩の中野鈴子は兄のプロレタリア文学者中野重治が当時(1932-34)投獄されていたこともあり、同じようにそちら方面に目覚めたことのようです。1929年上京した頃からなのでこの詩も1930年頃のものでしょう。吉田が音楽をつけたものは中野のオリジナルとは少し違っていますので、恐らく作曲者が手を入れたのでしょう。
詩も音楽も意余って力足らずと申しますか、メッセージ性が空回りしている感を強く感じますが、若い二人の熱意と意気込みを感じ取ってここにご紹介することにします。のちの組曲版ですが。奈良ゆみさんの録音で耳にすることができます。
( 2016.08.05 藤井宏行 )