頑是ない歌 |
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思えば遠く来たもんだ 十二の冬のあの夕べ 港の空に鳴り響いた 汽笛の湯気は今いずこ 雲の間に月はいて それな汽笛を耳にすると 竦然として身をすくめ 月はその時 空にいた それから何年経ったことか 汽笛の湯気を茫然と 眼で追いかなしくなっていた あの頃の俺はいまいずこ 今では女房子供持ち 思えば遠く来たもんだ 此の先まだまだ何時までか 生きてゆくのであろうけど 生きてゆくのであろうけど 遠く経て来た日や夜の あんまりこんなにこいしゅては なんだか自信が持てないよ さりとて生きてゆく限り 結局我ン張る僕の性質(さが) と思えばなんだか我ながら いたわしいよなものですよ 考えてみればそれはまあ 結局我ン張るのだとして 昔恋しい時もあり そして どうにかやってはゆくのでしょう 考えてみれば簡単だ 畢竟意志の問題だ なんとかやるより仕方もない やりさえすればよいのだと 思うけれどもそれもそれ 十二の冬のあの夕べ 港の空に鳴り響いた 汽笛の湯気は今いずこ |
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友川かずきはとてもたくさんの中原中也の詩に曲をつけていますが、私が聴いた中で一番見事にはまっていると感じたのはこの詩につけた曲です。彼の訥々とした東北なまりでこんな歌詞をつぶやかれればこれはもう恐れ入るしかありません。中也の詩につけた音楽の中でも指折りの傑作ではないでしょうか。2008年のアルバム「青い水・赤い水」に収録。
( 2016.07.05 藤井宏行 )