Auf dem grünen Balkon mein Mädchen Spanisches Liederbuch(Weltliche Lieder) |
世俗歌曲第5番 『緑色のバルコニーで、僕のあの娘が』 スペイン歌曲集_世俗歌曲集 |
Auf dem grünen Balkon mein Mädchen Schaut nach mir durch's Gitterlein. Mit den Augen blinzelt sie freundlich, Mit dem Finger sagt sie mir: Nein! Glück,das nimmer ohne Wanken Junger Liebe folgt hienieden, Hat mir eine Lust beschieden, Und auch da noch muß ich schwanken. Schmeicheln hör ich oder Zanken, Komm ich an ihr Fensterlädchen. Immer nach dem Brauch der Mädchen Träuft ins Glück ein bißchen Pein: Mit den Augen blinzelt sie freundlich, Mit dem Finger sagt sie mir: Nein! Wie sich nur in ihr vertragen Ihre Kälte,meine Glut? Weil in ihr mein Himmel ruht, Seh ich Trüb und Hell sich jagen. In den Wind gehn meine Klagen, Daß noch nie die süße Kleine Ihre Arme schlang um meine; Doch sie hält mich hin so fein - Mit den Augen blinzelt sie freundlich, Mit dem Finger sagt sie mir: Nein! |
緑色のバルコニーで、僕のあの娘が 格子の間からこっちを見てる その目はうれしげに目くばせをしているのに 指の仕草は僕に言う、「いやよ!」 幸いこの世の中に、 若人の愛に揺ぎがないなんてことはありゃしない それが僕に望みを授けてくれるけど、 でもやっぱり不安に揺れる 嬉しいことだったり憎まれ口だったりなんだ 彼女の窓辺で聞かされるのは、 女の子の流儀ってわけだな 幸せにちょいと苦味をたらしてよこすのが、 その目はうれしげに目くばせをしているのに 指の仕草は僕に言う、「いやよ!」 どうしたらうまく行くんだろう、 冷たいあの娘とのぼせた僕は? あの娘が僕の青空になってからというもの 曇ったり晴れたりめまぐるしく天気が変わる 僕の嘆きは風に飛ばされるだけ かわいいあの娘が まだ腕をからめてもくれないと なのに気を持たせるのだけはうまいんだ・・・ その目はうれしげに目くばせをしているのに 指の仕草は僕に言う、「いやよ!」 |
ほとんど聴いていなかったスペイン歌曲集の訳を続けるにあたり、まず訳詩を作ってから曲を聴くという方法をとるようになりました。その詩にどんな曲がつけられているのか想像するのも楽しみになりましたが、今までで一番意外な曲調だったのがこの作品です。ちょっと情けない詩 の内容に『すぐに弱気になるんじゃないよ』や『恋を取り逃がすやつなんか』のようなユーモラスなものを想像していたのですが、実際にはイタリア歌曲集の”Heb' auf dein blondes Haupt”のような穏やかで軽やか、陶酔的な作品でした。大変見事な歌曲と思います。若者の嘆き(おのろけ?)を流し去る風のようなピアノの分散和音は、ちょうど一つ前に訳した『棕櫚の樹々のあたりに浮かぶあなたがた』の風の描写を思わせるものがあります。
演奏はあまり多くないようですが、洗練されたフィッシャー=ディースカウ二種に加え、この種の曲を歌ったら天下一品のベーアとプライがあるのは幸いです。ヴォルフ協会のSP音源ではかのゲルハルト・ヒュッシュが格調高く歌っていますが、いささか折り目正しすぎる感じも。言うまでも無く以上はバリトン歌手ですが、テノールによるものでは白井さん他の抜粋盤に入っているプロチュカのがあります。
プライの甘美で楽天的な歌唱を聴いていると、この主人公の若者はいろいろ不満を並べてはいるが、実はこの恋はすでにうまく行っているのだという気がしてきます。ヴォルフもきっとそう解釈したのではないでしょうか・・・。
( 2003.2.14 甲斐貴也 )