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Wunden tra:gst du,meine Geliebter    
  Spanisches Liederbuch(Geistriche Lieder)
聖歌曲第10番『あなたは傷ついています、愛する方よ』  
     スペイン歌曲集_聖歌曲集

詩: ガイベル (Franz Emanuel August Geibel ,1815-1884) ドイツ
    Spanisches Liederbuch - 1. Geistliche Lieder (スペインの歌の本 1.聖歌曲) 9 Wunden tra:gst du,meine Geliebter 原詩:バルディビビエルソ José de Valdivielso,

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Wunden trägst du mein Geliebter,
Und sie schmerzen dich;
Trüg' ich sie statt deiner,ich!

Herr,wer wagt' es so zu färben deine Stirn mit Blut und Schweiß?

“Diese Male sind der Preis,dich,o Seele,zu erwerben.
An den Wunden muß ich sterben,
Weil ich dich geliebt so heiß.”

Könnt' ich,Herr,für dich sie tragen,da es Todeswunden sind.

“Wenn dies Leid dich rührt,mein Kind,
Magst du Lebenswunden sagen:
Ihrer keine ward geschlagen,draus für dich nicht Leben rinnt.”

Ach,wie mir in Herz und Sinnen deine Qual so wehe tut!

“Härtres noch mit treuem Mut
Trüg' ich froh,dich zu gewinnen;
Denn nur der weiß recht zu minnen,der da stirbt vor Liebesglut.”

Wunden trägst du mein Geliebter,
Und sie schmerzen dich;
Trüg' ich sie statt deiner,ich!

あなたは傷ついています、愛する方よ
そしてその傷に苦しんでいます
できることならかわりにその傷を担いたい、わたしが!

主よ、あなたの額を血と汗にまみれさせたのは誰なのでしょうか

「魂よ、この汚れはおまえの魂を得るための代価
 その傷のためにわたしは死のう
 それほど深くわたしはおまえを愛しているのだ」

主よ、死をも与えるその傷をわたしが担えればよいのですが

「この苦しみがおまえの心を動かすなら、我が子よ
 それを命を与える傷と呼びなさい
 わたしのこの傷がなければ、おまえの内に命が流れることもないのだから」

ああ、あなたの苦しみはなんとわたしの胸を痛めることか!

「おまえの心を得るためなら、さらに辛いことでも
 真の勇気を持ち喜んで耐えよう
 愛の炎に包まれて死ぬものだけが、真実の愛を知るのだから」

あなたは傷ついています、愛する方よ
そしてその傷に苦しんでいます
できることならかわりにその傷を担いたい、わたしが!

この訳には難渋しました。最初と最後に付された3行が、原罪を担う救い主の肩代わりをしようという考えようによっては不遜とも思えるものだからで、一時はこれを救い主の発言と解釈することも検討しましたが、それも無理があり断念。傷に苦しむ愛する人を思う素朴な感情としして表現してみました。救い主の発言三節のうち後の二つも意味がとり難いのですが、ひとつの案として読んでいただけたらと思います。第2番もそうだったのですが、詩人の森永かず子さんにキリスト教 と聖書に関する数々の助言を頂き非常に助かりました。森永さんのご意見が無ければ相当珍妙なものが出来ていたはずです。

ヴォルフの曲はたいへん感銘深いもので、あの偏屈な彼の心の奥底の純粋さを垣間見るかのようです。この曲にも第9番と同じくストラヴィンスキーのアンサンブル編曲があり、こちらはさらに上出来だと思います。9番の編曲と違って、信者とイエスにそれぞれ木管と弦楽を伴奏させるようなわかり易すぎる演出はなく、木管と弦楽のつつましく侘しげな響きが作品にふさわしい仕上がり。まさに「小受難曲」のようで、ヴォルフ自身が編曲してもこううまくはいかなっただろう、とさえ思います。

録音は少なく、通常のピアノ伴奏の形では、二種の全集のものしか聴けませんでした。二人とも優れていると思いますが、非常に良く考えて緻密に二者を描き分けているオッターには感心しました。また、戦中の録音でホッターがソプラノのシャッペンと信者とイエスを割りふった不思議な録音が残されていますが、あまり成功しているとは思えませんでした。ストラヴィンスキー版のマレーも健闘しています。あとはレーガーによるオルガン伴奏編曲版のライヒェルト(ソプラノ)。素直な歌唱が好ましく、バリトンによる9番の演奏よりずっと成功していると思いました。

( 2003.1.19 甲斐貴也 )


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