Serenade to Music |
音楽へのセレナーデ |
Lorenzo: How sweet the moonlight sleeps upon this bank! Here will we sit,and let the sounds of music Creep in our ears: soft stillness and the night Become the touches of sweet harmony. Look,how the floor of heaven Is thick inlaid with patines of bright gold: There's not the smallest orb that thou behold'st But in his motion like an angel sings Still quiring to the young-eyed cherubins; Such harmony is in immortal souls; But,whilst this muddy vesture of decay Doth grossly close it in,we cannot hear it. Come,ho! and wake Diana with a hymn: With sweetest touches pierce your mistress' ear, And draw her home with music. Jessica: I am never merry when I hear sweet music. Lorenzo: The reason is,your spirits are attentive: The man that hath no music in himself, Nor is not mov'd with concord of sweet sounds, Is fit for treasons,stratagems and spoils; The motions of his spirit are dull as night, And his affections dark as Erebus: Let no such man be trusted... Music! hark! Nerissa: It is your music of the house. Portia: Methinks it sounds much sweeter than by day. Nerissa: Silence bestows that virtue on it. Portia: How many things by season season'd are. To their right praise and true perfection! Peace,ho! the moon sleeps with Endymion, And would not be awak'd. (Soft stillness and the night Become the touches of sweet harmony.) |
ロレンツォ なんて素敵だろう 月の光が岸の上でまどろんでる! さあここに座って 楽の音を 私たちの耳に忍び込ませよう この柔らかな静けさと夜は ぴったりくるぞ この甘いハーモニーには ご覧 天の床には 一杯に敷き詰められているようだ 明るい金色の小皿が お前の目に映るどんな小さな天体だって その動きはまるで ひとりの天使が歌っているようだ 声を合わせて あの若い目をしたケルビムたちと そのハーモニーは不滅の魂を持つ者たちのうちにある だけど この朽ちて行く泥の肉体が 身を包んでいては 私たちにそれは聞こえないのだ 来て ほら!月の女神ダイアナを目覚めさせてくれ 賛歌で 最高に甘美なメロディを 君たちの女主人さまのお耳に入れて 音楽でご自宅にお戻り頂くようにするんだ ジェシカ あたし楽しくなったことないわ きれいな音楽を聴いても ロレンツォ そのわけはね 君が気を使い過ぎるからさ 自分の中に音楽を持たない人間や 甘美な音の調和にも心動かされない人間は 裏切りや陰謀や略奪に向いていて そいつの精神の動きは夜のように鈍いんだ それにそいつの感情は暗いんだ 黄泉の国みたいに: そんな奴は信用しないようにしよう...音楽だ!聞いて! ネリッサ お屋敷からの音楽ですわ ポーシャ 聞こえてくる気がするわね 何だかずっと素敵に 昼間より ネリッサ 静けさのおかげで映えるのでございましょう ポーシャ 何てたくさんのことが季節に彩られてるお陰で 大いに讃えられたり 完璧なものになるの! 静かに!ほら!月の女神はエンディミオンと眠ってる もう起こせないわね (柔らかな静けさと夜は ぴったりくるぞ この甘いハーモニーには) |
「ヴェニスの商人」 第5幕第1場、ロレンツォとジェシカ(ヴェニスの商人シャイロックの娘)との夜のデートのシーン、月が出ています。ポーシャの屋敷の楽師たちが美しいセレナーデを奏で始めました。何だか良いムードの会話ですね。そこへポーシャと侍女のメリッサも現れてこれから四人が出会うところです。
ヴォーン=ウイリアムズはこのシーンの台詞から一部を抜き出して来て、16人の独唱者からなる管弦楽伴奏のセレナーデを作りました。
ここに掲げた対訳は一応喋る通りに各役名と紐付けていますが(音楽で省略されている台詞は省略しました)、ヴォーン=ウイリアムズの音楽は誰が喋っているかに関係なく、16人の合唱と、中間部分(「この甘いハーモニーは」のところから)以降にソリストたちが順にソロを歌いながらこの美しい音楽を紡ぎ出して行きます。
映画音楽のように雄弁な、そしてため息が出るような美しさの歌とオーケストラです。ヴォーン=ウイリアムズ自身も気に入ったのか、後に混声合唱版も作っており、これでも良く歌われているようです。
( 2016.01.13 藤井宏行 )