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Rhapsodie für Alt   Op.53  
 
アルト・ラプソディ Op.53  
    

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    Harzreise im Winter (冬のハルツの旅 1777)  Aber abseits wer ist's?

曲: ブラームス (Johannes Brahms,1833-1897) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Aber abseits wer ist's?
Im Gebüsch verliert sich der Pfad.
Hinter ihm schlagen
Die Sträuche zusammen,
Das Gras steht wieder auf,
Die Öde verschlingt ihn.

Ach,wer heilet die Schmerzen
Des,dem Balsam zu Gift ward?
Der sich Menschenhaß
Aus der Fülle der Liebe trank?
Erst verachtet,nun ein Verächter,
Zehrt er heimlich auf
Seinen eignen Wert
In ung'nugender Selbstsucht.

Ist auf deinem Psalter,
Vater der Liebe,ein Ton
Seinem Ohre vernehmlich,
So erquicke sein Herz!
Öffne den umwölkten Blick
Über die tausend Quellen
Neben dem Durstenden
In der Wüste!

だが離れたところを行く あれは誰だ?
茂みの中へ 道は消えて行き
彼の背後ではぶつかり合っている
灌木の枝同士が
草は再び立ち上がり
荒れ地が彼を飲み込んでしまう

ああ 誰がこの痛みを癒してくれるのか
薬が毒へと変わってしまった者の?
人間の憎しみを
愛の充溢からすら飲んでしまった者の?
初めは蔑まれ 今は人を蔑む者となって
彼は密かにすり減らしているのだ
自分自身の価値をも
満たされぬ自己愛のうちに

もしも御身の竪琴に
愛の父よ 響きがあるのなら
彼の耳に届く
彼の心をよみがえらせ給え!
曇ったまなざしを見開かせ
幾千もの泉が
渇いた者のそばにあることを見せ給え
この荒野のうちにも!


ゲーテの中篇詩「冬のハルツの旅」より、ちょうどその中間部分を取り出して(全11節中の5〜7節。全体の4分の1ほどの分量です)管弦楽伴奏にアルトのソロと男声合唱による15分ほどの曲としています。ハルツ山地はドイツ中北部、ハノーファーとライプツィヒの間にあって、魔女たちが集まることで有名なブロッケン山もここにあります。ゲーテはこの地方を1777年の11〜12月にかけて旅行し、その際にこの詩も書かれています。ブラームスが取り上げなかった前半後半もここに取り上げたのと同じようなテイストの、荒涼たる自然の描写とそこを行く人間を見つめながらの運命の描写、そして神への賛美が延々と繰り返されますので、こんな風に切り出すのもまあ意味はあるでしょうか。興味深いのは1794年にライヒャルトがブラームスとほぼ同じ6〜7節を取り上げて独唱歌曲にしていることで、しかもこの歌曲、タイトルがなぜか「ラプソディー」とも呼ばれているのです。他にはこの詩を歌曲に取り上げている人も居なさそうなことから、ブラームスの選択もこの歌曲に影響されているのかも知れません(ちなみにブラームス作品の作曲は1870年でした)。
歌詞で触れられている男の描写が妙に突き放されている感じがするのが何となく妙な感じもしますが、これは詩の解説によると(潮出版社のゲーテ全集1 山口四郎氏の訳註より)、このハルツ旅行のひとつの目的に、彼の作品で若者に大センセーションを引き起こした「若きウェルテルの悩み」にかぶれたいわゆる「ウェルテル病」の患者のひとりの若者を励ましに行ったということがあるのだそうで、ここに描写されているのがそんな若者の姿だ、ということのようです。ブラームスの取り上げた部分では最後の神への祈りもそんな若者のためにゲーテがしているということになりますでしょう。
ブラームスのつけた曲が全体に地味なのであまり印象に残りにくいところはありますが、しっとりと深みのあるアルトのソロが、Ist auf deinem Psalterと歌い始めるところから安らかな響きになって、弱音で支える男声合唱かここから入ってきて美しく曲を盛り上げていくところはなかなか感動的です。

( 2016.01.09 藤井宏行 )


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