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Hochbeglückt in deiner Liebe    
  Lieder nach Gedichten von J W von Goethe
あなたの愛の中で至福に満ちているわたしは  
     ゲーテ歌曲集

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
    West-östlicher Diwan (西東詩集) Buch Suleika(ズライカの書) Hochbeglückt in deiner Liebe

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Hochbeglückt in deiner Liebe
Schelt ich nicht Gelegenheit,
Ward sie gleich an dir zum Diebe,
Wie mich solch ein Raub erfreut!

Und wozu denn auch berauben?
Gib dich mir aus freier Wahl;
Gar zu gerne möcht ich glauben:
Ja,ich bin's,die dich bestahl.

Was so willig du gegeben,
Bringt dir herrlichen Gewinn;
Meine Ruh,mein reiches Leben
Geb ich freudig,nimm es hin!

Scherze nicht! Nichts von Verarmen!
Macht uns nicht die Liebe reich?
Halt ich dich in meinen Armen,
Jedem Glück ist meines gleich.

あなたの愛の中で至福に満ちているわたしは
「チャンス」を非難するつもりはありません。
「チャンス」があなたから盗みをはたらくのなら
そんな盗みは大歓迎です。

そもそも何のために盗んだりするのでしょう。
あなたご自身が自らわたしにお与えくださればいいのです。
むしろわたしはこう思いたいくらい、
そうです、あなたから盗み取ったのはこのわたしなのだと。

あなたが進んでお与えくださったものが、
あなたに素晴らしいお返しをするのです。
わたしの安らぎ、わたしの豊かな生を
喜んで差し上げましょう。さあ、受け取ってください。

ご冗談でしょう、貧しくて何もないなんて。
愛がわたしたちを富ませてくれませんでしたか。
あたしの腕の中であなたを抱きしめるときにはじめて
ほかの人と同じようなしあわせを感じることができるのです。

この曲はゲーテの「西東詩集」の中の「ズライカの書」の1篇に、ヴォルフが18
89年1月23日に作曲したもので、「ゲーテ歌曲集」の第40曲に置かれていま
す。
この歌曲集の第39曲から第48曲までの10曲が「ズライカの書」の詩に付曲さ
れたもので、ハーテムという男性とその恋人ズライカの相聞歌となっています。

この詩もこれだけ読んでもいまいち意味が分かりませんが、この前に置かれたハー
テムの詩に対する返答の形になっています(ヴォルフもこの2曲は続けて配置してい
ます)。前のハーテムによる詩は、「チャンスが泥棒を生むのではなく、チャンス自
体が最大の泥棒なのです」と始まり、チャンスが泥棒になって私の愛をすべて奪って
しまったので、何もない私はあなたにすがるしかないという、ほかの人の踏み込む余
地のない2人だけの甘い愛の世界が展開されます。

ちなみに「チャンス(機会)が泥棒を作る」(Gelegenheit macht Liebe.)は「盗
みは出来心」という決まった言い方のようで、その頭に「nicht」を付けたというこ
とのようです(慣用句のような表現に「nicht」を付けるやり方は「メーリケ歌曲
集」の「ある結婚式で」にも見られます)。

この曲を含め、ズライカの詩に付けられたヴォルフの曲はたった3曲ですが、女声
歌手の貴重なレパートリーです。

私が好きなのは以下の2点です。

* アメリング(S)ヤンセン(P) (1981年)(ETCETERA)
* ロット(S)パーソンズ(P) (1988年)(Chandos)

アメリングは表情のつけ方が絶妙で、このダイナミックな曲の疾走感を失わずにこ
れほどの語りかけが出来るのはやはり脱帽!の一言です。また、ヤンセンの演奏が素
晴らしく、この難曲を楽々弾きこなすテクニックだけでなく、歌の部分では適度なバ
ランスをとり、前奏・後奏では主張がごく自然になされて全く非のつけどころがあり
ません。
ロットはよく通る声を自在にコントロールし、パーソンズもヤンセンほどの疾走感
はないものの十分積極的な演奏を聴かせてくれます。

この詩を訳した後にあらためてこの曲の録音を聴いてみたのですが、今まで気づか
なかったんですが、後奏は恋人同士の情事の表現に聴こえてきたのです。ヤナーチェ
クの「消えた男の手紙」にもそのものの曲がありますが、ヴォルフでは珍しいのでは
と思います。

( 2001.11.14 フランツ・ペーター )


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