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Tristesse d'Olympio    
 
オランピオの悲しみ  
    

詩: ユゴー (Vicomte Victor Marie Hugo,1802-1885) フランス
    Les Rayons et les Ombres 34 Tristesse d'Olympio

曲: フォーレ (Gabriel Fauré,1845-1924) フランス   歌詞言語: フランス語


Les champs n’étaient point noirs,les cieux n’étaient pas mornes.
Non,le jour rayonnait dans un azur sans bornes
Sur la terre étendu,
L’air était plein d’encens et les prés de verdures
Quand il revit ces lieux où par tant de blessures
Son cœur s’est répandu!

Hélas! se rappelant ses douces aventures,
Regardant,sans entrer,par-dessus les clôtures,
Ainsi qu’un paria,
Il erra tout le jour,à l’heure où la nuit tombe,
Il se sentit le cœur triste comme une tombe,
Alors il s’écria:

«Ô douleur! j’ai voulu,moi dont l’âme est troublée,
Savoir si l’urne encor conservait la liqueur,
Et voir ce qu’avait fait cette heureuse vallée
De tout ce que j’avais laissé là de mon cœur!

«Que peu de temps suffit pour changer toutes choses!
Nature au front serein,comme vous oubliez!
Et comme vous brisez dans vos métamorphoses
Les fils mystérieux où nos cœurs sont liés!

«Eh bien! oubliez-nous,maison,jardin,ombrages!
Herbe,use notre seuil! ronce,cache nos pas!
Chantez,oiseaux! ruisseaux,coulez! croissez,feuillages!
Ceux que vous oubliez ne vous oublieront pas.

«Car vous êtes pour nous l’ombre de l’amour même!
Vous êtes l’oasis qu’on rencontre en chemin!
Vous êtes,ô vallon,la retraite suprême
Où nous avons pleuré nous tenant par la main!»

野は暗くはなかった 空は曇ってはいなかった
いいや 日光は輝いていた 果てしない青空に
広がる大地の上に
大気は香りに満ち 牧場は緑で満ち溢れていた
彼が再びこの地を目にし あのたくさんの痛みが
彼の心に広がった時も!

ああ!自らの甘美な恋のことを思いだし
見つめていた 立ち入ることなく フェンス越しに
まるでこの世ののけ者になったように
彼は一日中さまよった 夜の帳が降りる頃
彼は墓のように悲しい心を感じて
それから彼はこう叫んだ:

「おお苦しみよ!私は望んだのだ この魂を掻き乱して
知ることを この壷にまだ酒が残っているのかを
そして見ることを この幸せの谷間がどうしたのかを
私の心がここに残したすべてのものを!

「何とわずかな時で十分なのだ すべてのことを変えるのは
自然は穏やかな顔 何とお前は忘れやすいのだ!
そして何と無残に断ち切るのだ お前の変身の間に
私たちの心結んでいたあの神秘の糸を!

「よかろう!私たちを忘れろ 家よ 庭よ 木陰よ!
草よ 私たち戸口を塞げ!イバラよ 私たちの足跡を隠せ!
歌え 鳥たちよ!小川よ 流れよ!茂れ 木の葉よ!
お前たちが忘れても 私たちはお前たちを忘れないぞ

なぜならお前たちは私たちにとって愛の影そのものだから
お前たちはオアシスなのだから 人が旅の途中で出会う!
お前は おお谷間よ 最高の隠れ場所だ
そこで私たちは泣いたのだ 手に手を取って!」


これも未出版なのでフォーレとしては知られざる歌曲となっています。詩集「光と影 Les rayons et les ombres(1840)」の中にあるユゴーのこの詩「オランピアの悲しみ」は全部で38節もある長大なものです。楽譜を確認しておりませんので断言はできないですが、フォーレはここからいくつかの節を拾い出し、つなげて歌曲にしております。Hyperionの歌曲全集でヴァーコーのバリトンによって歌われていますが、そこのライナーに書かれた節だけを拾い上げて訳をつけてみました。全体の訳がお知りになりたい方はちくま文庫の「フランス名詩集」(井上究一郎訳)をご覧ください。フォーレの選択は、冒頭第1節、そこから情景描写部分を全部飛ばしてオランピオが独白を始める第8節、そこからそのまま独白の9・10節と来て、また延々と続くこのモノローグを飛ばして途中の31・32節です。さすがにダイジェストのし過ぎで詩の本質が拾い切れておらず、それがこの作品がお蔵入りになった理由だとHyperionの解説には書かれておりましたが実際のところはどうなのでしょう。
オランピオとはギリシャのオリュンポスの山々のこと。ユゴーが自分の分身として創造した人物で、のちには彼自身のニックネームにもなっています。この詩は失った愛の回想ですが、ここで想っている相手はジュリエット・ドルーエという愛人のことだとか。
色々複雑な事情はさておき、音楽は初期歌曲らしく明晰なメロディが美しいです。多少ステレオタイプな感傷表現を感じなくもありませんが。

( 2015.12.26 藤井宏行 )


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