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Gutmann und Gutweib    
  Lieder nach Gedichten von J W von Goethe
旦那さんとおかみさん  
     ゲーテ歌曲集

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
      Gutmann und Gutweib

曲: ヴォルフ (Hugo Wolf,1860-1903) オーストリア   歌詞言語: ドイツ語


Und morgen fällt Sankt Martins Fest,
Gutweib liebt ihren Mann;
da knetet sie ihm Puddings ein
und bäckt sie in der Pfann.

Im Bette liegen beide nun,
da saust ein wilder West;
und Gutmann spricht zur guten Frau:
du,riegle die Türe fest.

Bin kaum erholt und halb erwarmt,
wie käm ich da zu Ruh;
und klapperte sie einhundert Jahr,
ich riegelte sie nicht zu.

Drauf eine Wette schlossen
sie ganz leise sich ins Ohr;
So wer das erste Wörtlein spräch,
der schöbe den Riegel vor.

Zwei Wanderer kommen um Mitternacht
und wissen nicht,wo sie stehn,
die Lampe losch,der Herd verglomm,
zu hören ist nichts,zu sehn.

Was ist das für ein Hexenort?
da bricht uns die Geduld!
Doch hörten sie kein Sterbenswort,
des war die Türe schuld.

Den weißen Pudding speisten sie,
den schwarzen ganz vertraut.
Und Gutweib sagt sich selberviel,
doch keine Silbe laut.

Zu diesem sprach der jene dann:
wie trocken ist mir der Hals!
Der Schrank,der klafft,und geistig riechts's,
da findet sich's allenfalls.

Ein Fläschen Schnaps ergreif ich da,
das trifft sich doch geschickt!
Ich bring es dir,du bringst es mir,
und bald sind wir erquickt.

Doch Gutmann sprang so heftig auf
und fuhr sie drohend an:
bezahlen soll mit teurem Geld,
wer mir den Schnaps vertan!

Und Gutweib sprang auch froh heran,
drei Sprünge,als wär sie reich:
Du,Gutmann,sprachst das erste Wort,
nun riegle die Türe gleich!

さて 明日は聖マルタンさまの祝日ちゅうことで
おかみさん 旦那に惚れとりますからな
旦那にプディングを作ろうと
こんがりフライパンで焼いたんでございます

で 二人で一緒に床につきますってえと
はげしい西風がぴゅーうっと
そこで旦那はおかみさんにこう言うんですな
お前 行って扉をしっかり閉めてくんねえか

あたしゃねえ 床について やっとあったまってきて
いい塩梅に寝れたとこだよ
あの戸が百年ガタガタいったって
閉めになんて行ってやるもんかい

そこでこの二人 賭けることにしたんです
お互いの耳元に小声で
最初にひとっ言でも喋った方が
扉を閉めに行くっちゅうことで

さて二人の旅のもんが夜中にやって参りました
さっぱり分かりません どこに居るんだか
灯りは消えてますし かまどの火も落ちてる
何も聞こえも見えもしないんです

まったく何ちゅう魔女の屋敷だ?
俺ぁ辛抱できねえ!
けれど言葉一つ聞こえません
例の扉のことがありましたからな

そこでこの二人 プディングをおいしくいただきました
黒い方もまったく結構なお味でした
おかみさん こん畜生めと思いましたけど
声には出しません

するってえと片割れにもうひとりが言うことには
俺ぁのどが渇いたぜ!
あそこの戸棚が開いてて酒の匂いがするだろ
何か見つけられるかもしれねえな

ブランデーの瓶だ ほれ見つけたぞ
こりゃ全くツイてるじゃねえか!
俺がおめえに注いでやっから おめえ俺に注いでくれ
それですぐに生き返るってもんだ

と、そこへ旦那さん 激しく飛び出しまして
こやつらに言いますには
たんまり金を払ってもらうぞ
俺のブランデーを空けた奴にゃあ!

でもって おかみさんの方も嬉しそうに飛び出してきて
金持ちになったみたいに三回飛び跳ねるってえと
あんた 最初に喋ったろ
さあかんぬきを閉めとくれよ!


聖マルタン(マルティヌス)の祝日は11月11日、緯度の高いヨーロッパではかなり寒い時期でしょうから、日本で言えばちょうど今(12月)くらいの感覚でしょうか。思わず微笑んでしまうようなお話です(心温まる内容ではありませんが)。実はゲーテの詩には元ネタがあり、スコットランドの古いバラード「Get Up and Bar the Door(起きてドアにかんぬきをかけとくれ)」です。Youtubeではこのスコッティッシュバラードの歌だけでなく、寸劇やらアニメやらでこのお話を紹介しているものが山のようにありましたのでぜひご覧頂ければと思います。面白いのはもとのお話では、夫婦は布団にもぐっているわけではなくて石像みたいにじっと固まって我慢比べをやっているので、二人の侵入者はプディングを食べるだけではなく旦那さんの方の髭を剃り、おかみさんの方にキスしようとしたものですから旦那の方が我慢できなくなって最初の声を上げる、という展開になっています。ここのところはゲーテのようにブランデーを飲まれそうになって思わず飛び出した、という方が間抜け度が上がってユーモラスですね。
この江戸小噺にでもありそうなゲーテのバラード、日本語にするとなると思わず私はこんな風に訳したくなりました。あんまり落語には詳しくないものでちょっと言い回しに不自然なところもあるかと思いますが、これくらいにしないとこの詩の面白さは活きないのではないかということで。ヴォルフの音楽も手を変え品を変えてこのユーモラスな世界を表現しています。

( 2015.12.13 藤井宏行 )


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