Sind es Schmerzen,sind es Freuden Op.33-3 Die schöne Magelone |
これは苦しみなのか これは喜びなのか 美しきマゲローネ |
Sind es Schmerzen,sind es Freuden, Die durch meinen Busen ziehn? Alle alten Wünsche scheiden, Tausend neue Blumen blühn. Durch die Dämmerung der Tränen Seh' ich ferne Sonnen stehn,- Welches Schmachten? welches Sehnen! Wag' ich's? soll ich näher gehn? Ach,und fällt die Träne nieder, Ist es dunkel um mich her; Dennoch kömmt kein Wunsch mir wieder, Zukunft ist von Hoffnung leer. So schlage denn,strebendes Herz, So fließet denn,Tränen,herab, Ach,Lust ist nur tieferer Schmerz, Leben ist dunkeles Grab,- Ohne Verschulden Soll ich erdulden? Wie ist's,daß mir im Traum Alle Gedanken Auf und nieder schwanken! Ich kenne mich noch kaum. O,hört mich,ihr gütigen Sterne, O höre mich,grünende Flur, Du,Liebe,den heiligen Schwur: Bleib' ich ihr ferne, Sterb' ich gerne. Ach,nur im Licht von ihrem Blick Wohnt Leben und Hoffnung und Glück! |
これは苦しみなのか これは喜びなのか わが胸より湧き出でしものは? すべての昔の願いはみな消え去り 幾千もの新しい花が咲く 涙でにじむ薄明かりの中から 私は遠くに二つの太陽が輝くのを見る なんたる苦しみ! なんたるあこがれ! やってみるのか? もっと近付くべきなのか? ああ、そして涙はこぼれ落ち わが周囲は暗くなって行く このまま願ったことが戻って来ぬならば 未来は望みなきものになろう ならば脈打つがよい、はやる心臓よ ならば落ちるがよい、涙よ 下へと ああ、喜びは一層深い痛みとなり 人生は暗き墓場だ - 何の過ちもなく 私は耐えねばならぬのか? 一体どうして わが夢の中で すべてのこの思いは 上へ 下へと揺れるのだ! 私はもはや自分が分からなくなった おお 聴けよ お前たちやさしき星よ おお 聴けよ 緑の野よ お前 愛よ この厳粛な誓いを あの人から離れているくらいなら 私は喜んで死のう ああ、彼女の眼差しの光の中だけに 人生と希望と幸福があるのだ! |
幾日も旅を続けたペーターはナポリに着きます。その道すがら幾度もこの土地の姫君マゲローネが比類ない美しさであるという噂を耳にしておりましたので、彼はなんとかその姫君の顔を見たいものと思います。泊まった宿の主人によれば、近々このナポリの領主が馬上試合を開催し、その試合には甲冑をつけて行くならば他国の者でも参加が許されるとのこと。ペーターは自分の技量と運とを試そうとこの馬上試合への参加を心に誓うのでした。
続いての第4章は「ペーターは美しきマゲローネに出会う(Peter sieht die schöne Magelone)」というタイトル。馬上試合当日甲冑に身を固めたペーターは匿名で試合に参加します。向かうところ敵なしの彼の奮闘にナポリの領主はじめ名を知りたいと望んだのですが、彼は名乗るほどの大物ではないと謙虚さを見せます。また姫君マゲローネも彼の試合ぶりをバルコニーの上から見つめていました。
日を置かず別の馬上試合が開かれることとなり、マゲローネはまたあの騎士の活躍を見たいと願います。どうやら彼女は彼に恋したようです。騎士ペーターは今度も圧倒的な強さを見せます。その姿に熱い視線を注ぐマゲローネ。勝利者は領主の祝宴に招かれることになり、ペーターはマゲローネの真向かいに座ることになります。初めて間近で向かい合う二人。熱く見つめ合います。たまたま広間で二人きりになった時、マゲローネは彼にどうかまたお出で下さいますようにという言葉をかけ、熱い眼差しで彼を見送ります。
すっかり有頂天になって表を歩くペーター。とある庭園に足を踏み入れると、浮かれたかと思うと急に不安になって号泣したりとすっかり情緒不安定に。やがて夕闇が迫りあたりがすっかり静かになると、彼は小声でこんな歌を歌いだすのでした。
この歌は私の知る限りもっとも甘美なブラームスのラブソングのように思います。天下無双の豪傑がこんなセンチメンタルな歌を歌っちゃアカンだろうと思わなくもないですが、またそこが微笑ましくもあります。愛の気持ちに陶酔する冒頭部分だけでなく、「涙がこぼれ落ち」る第3節からは落ち込んだかと思うと、「何の過ちもなく」の第5節あたりからは突然今度は躁状態となって、最後は愛の高揚感を高らかに歌い上げるというなかなか凝った作りの歌。歌詞を見ながらじっくりと聴き込むとたいへん面白いです。なお第2節でマゲローネの瞳を仄めかしているのではと思い「二つの太陽」としておりますが、ここはドイツ語の太陽が複数形になっているだけで、特に二つと決まっているわけではありません。涙で目がにじんで太陽がいっぱい見えるという解釈もありますが、物語上は夜ということになっていますので、まあこういう解釈もあり得るかも知れないということでご容赦ください。
( 2015.12.08 藤井宏行 )