Nixe Binsefuß Gedichte von Eduard Mörike für eine Singstimme und Klavier |
ニクセのビンゼフース メーリケ歌曲集 |
Des Wassermanns sein Töchterlein Tanzt auf dem Eis im Vollmondschein, Sie singt und lachet sonder Scheu Wohl an des Fischers Haus vorbei. »Ich bin die Jungfer Binsefuß, Und meine Fisch’ wohl hüten muß, Meine Fisch’ die sind im Kasten, Sie haben kalte Fasten; Von Böhmerglas mein Kasten ist, Da zähl’ ich sie zu jeder Frist. Gelt,Fischermatz? gelt,alter Tropf, Dir will der Winter nicht in Kopf? Komm mir mit deinen Netzen! Die will ich schön zerfetzen! Dein Mägdlein zwar ist fromm und gut, Ihr Schatz ein braves Jägerblut. Drum häng’ ich ihr,zum Hochzeitsstrauß, Ein schilfen Kränzlein vor das Haus, Und einen Hecht,von Silber schwer, Er stammt von König Artus her, Ein Zwergen-Goldschmids-Meisterstück, Wer’s hat,dem bringt es eitel Glück: Er läßt sich schuppen Jahr für Jahr, Da sind’s fünfhundert Gröschlein bar. Ade,mein Kind! Ade für heut! Der Morgenhahn im Dorfe schreit.« |
水の精の女の子が 満月の光を浴びて氷の上で踊り 怖じ気もなく歌って笑って 漁師の家のそばを通る 「あたしは生娘ビンゼフース 魚をしっかり守らなければいけないの わたしの魚たちは箱の中 寒さの中で断食の修行中 あたしの箱はボヘミアングラスだから いつでも魚を数えられるの ねえ、お馬鹿な漁師さん、ねえ、頓馬なおじいさん 今は冬だってことを知らないの? 網を持ってこちらにおいでなさいな! きれいに引き裂いてあげるわよ! あんたの娘は信心深くてよい子よね そして彼氏は勇敢な狩人気質 だから彼女のために掲げましょう、婚礼の花束と 葦の小さな冠を家の前に そして重い銀製のカワカマス それはアーサー王の頃から伝わる 小人の金細工師の作った傑作で 持った人に幸せだけをもたらすの 毎年その鱗を落とせば 500グロッシェンのお金になるわ じゃあね、あたしのよい子! 今日はこれでさようなら! 村で夜明けの鶏が鳴いてるわ」 |
この詩はメーリケの「舟乗りと水の精の童話」という4部作の詩の第2部で、これ以外の3部は人間たちが水の精によって水に引き込まれたり殺されたりする陰惨な詩です(三修社刊の森孝明氏による全訳詩集で読むことが出来ます)。アーサー王の名が出てきたり、ラファエル前派の絵画の情景を思わせるような詩ですね。
”Nixe”ニクセとはゲルマン民族の伝承にある人魚の姿をした女の水の精霊(男性はニクス)。英語の”Mermaid”マーメイド(人魚)と同義とされ、どうやらケルト神話の妖精ニクシー”Nixie”由来のようです。ニクシーは歌や踊りが上手で、人間を誘っては水中の国へと連れ去ったり、泳いでいる人を溺れさせる事もあるといいます。伝説ではなく19世紀の創作ですが、あのローレライもニクセの一人ということになっているようです。
詩の一行目にニクセの別名とされる”Des Wassermanns”(水の人たち)が出てきますが、これの訳は「水の精」を当てるのが妥当でしょう。そうなるとタイトルではわざわざ違えて”Nixe”にしてあるのだから訳でも変えたいところです。そこで「水の妖精」とか「水妖」(ちょっとものものしいですが、フーケー作の水の精の物語「ウンディーネ」の邦訳が「水妖記」となっていることから)、「人魚」なども考えたのですが、結局カタカナで「ニクセ」として、コメントで説明をすることにしました。
”Binsefuss”ビンゼフースとはイグサの根元という意味ので、これを訳して「葦の根の妖精」(何故かイグサを葦にしている)とした訳がありますが、森孝明氏や喜多尾道冬氏の訳のように主人公の妖精の名前とするのが妥当と思います。「寒さの中で断食の修行中」について、キリスト教の行事に絡めた訳がありますが、これは冬に魚が氷の下で餌を食べずにじっとしていることを冗談めかして言っているだけと解釈してほぼ直訳にしました。アーサー王の頃から伝わる銀製のカワカマスには何かいわくがありそうですが、今のところ情報を得ていません。難しいのは最後から二行目の”mein Kind”「わたしの子」で、おじいさんの漁師に対してどうしてこうなるのかわかりませんが(逃げて全く訳していない既訳もあります)、上機嫌の水の精のジョークと考えてそのままにしました。
ヴォルフの作曲は目まぐるしいほど軽快で楽しいものです。コロラトゥーラのエルナ・ベルガー(Della Voce Luna)、グルベローヴァ(ソニー)が大変見事に歌っていますが、かつて白井さんも実演で非常に素晴らしい歌唱を聴かせてくれました。彼女のメーリケ歌曲集にこの曲が収められていないのは残念です。
参考文献:バーバラ・ウォーカー著「神話・伝承事典」(大修社書店)、ピエール・デュボア著「妖精図鑑〜花と水の精」(文渓堂)、ヴィック・ド・ドンデ著「人魚伝説」(創元社)
( 2004.5.1 甲斐貴也 )