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高千穂    
  海道東征
 
    

詩: 北原白秋 (Kitahara Hakusyuu,1885-1942) 日本
    新頌 (1941)  高千穂

曲: 信時潔 (Nobutoki Kiyoshi,1887-1965) 日本   歌詞言語: 日本語


神坐(かみま)しき、蒼空(あをぞら)(とも)(たか)く、
身坐(みま)しき、皇祖(すめらみおや)
 (はる)かなり()中空(なかぞら)
 (きは)()皇産霊(すめらむすび)
 いざ(あふ)()のことごと、
 (あめ)なるや(たか)きみ(あれ)を。

国成(くにな)りき、綿津見(わたつみ)(しほ)(わか)く、
()()しき、この国土(くにつち)
 (はる)かなり()国生(くにうみ)
 おぎろなし(あめ)瓊鉾(ぬぼこ)
 いざ()けよそのこをろに、
 大八洲(おおやしま)()がるとよみを。

皇統(みすまる)や、天照(あまて)らす(かみ)御裔(みすゑ)
代々坐(よよま)しき、日向(ひむか)すでに。
 (はる)かなり()高千穂(たかちほ)
 かぎりなし千重(ちへ)波折(なをり)
 いざ()げよ()直射(たださ)
 海山(うみやま)のい()宮居(みやゐ)を。

神坐(かみま)しき、千五百秋(ちいほあき)瑞穂(みづほ)(くに)
皇国(すめぐに)豊葦原(とよあしはら)
 (はる)かなり()肇国(はつくに)
 (きは)()(あま)つみ(わざ)
 いざ()たせ()(ひがし)へ、
 光宅(みちた)らせ玉沢(みうつくしび)を。



1940年、神武天皇より始まって天皇の治世が2600年となったことを祝って様々な記念行事が行われました。クラシック音楽界ではベンジャミン・ブリテンやリヒャルト・シュトラウスなどの作曲家に記念の音楽を委嘱したことが有名かと思いますが、日本人ではこの信時潔が神武天皇の高千穂の峰を出でて瀬戸内・大阪・熊野を経て大和の国まで東征したという伝説をもとに書いた本邦初のカンタータがもっとも良く知られているでしょうか。詩の北原白秋も病身をおして力の籠った作品をこのカンタータのために書きおろしました。彼の詩は最後の詩集「新頌」(1941)に載せられ、現在は青空文庫で読むことができます。白秋自身の後記でこのカンタータへの思い入れが書かれてありますのでぜひご覧頂ければと思います。
歌詞の内容が内容だけに、戦後はなかなか取り上げられることが難しく、またあえてやろうとすると出演者がどうしても大がかりとなりますのでほとんど幻の作品となってしまいましたが、北原白秋・信時潔共々渾身の力を込めて書いた作品なのですから、やはり見逃せない傑作だと思います。今年(2015)年、東京音楽学校の後身である東京芸大で没後50周年を記念して75年ぶりの初演団体による再演があるということで、保守系のメディアなどがちょっと浮かれた記事を書いていたりしております。
それらの動きと一緒に見られるのは少々抵抗ありますが、やはりこの大作を無視して信時潔は語れませんのでできるだけイデオロギー性は排してご紹介したいと思います。
歌詞だけのご紹介ですし、歌詞としては上記の「新頌」で読めますから私がわざわざやることもないのですが...
第1章はイントロダクション、国生みや天孫降臨の伝説を歌詞に織り込みながら「いざ征たせ早や東に」とこれから始まる東征に力強く触れます。天孫降臨した日向の高千穂が東征の出発点となるのですね。
「新頌」で読める白秋の詩には「男聲(獨唱竝に合唱)」と記載があり、冒頭バリトンのソロが第1節最初の2行を、それを受けて混声合唱が残りを歌います。第2節も同じように最初の2行がバリトンソロ、残りが合唱、3・4節は最初の2行をテノールのソロが歌います。ゆったりとしたテンポでこれから始まる物語への導入を荘重に歌い上げて行きます。

( 2015.11.20 藤井宏行 )


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