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Nocturne   Op.31-3  
  Serenade for tenor,horn and strings
夜想曲  
     テノール・ホルンと弦楽のためのセレナード

詩: テニスン (Lord Alfred Tennyson,1809-1892) イギリス
    The Princess  The splendour falls on castle walls

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: 英語


The splendour falls on castle walls
And snowy summits old in story:
The long night shakes across the lakes,
And the wild cataract leaps in glory:
Blow,bugle,blow,set the wild echoes flying,
Bugle,blow ; answer,echoes,
dying,dying,dying.

O hark,O hear how thin and clear,
And thinner,clearer,farther going!
O sweet and far from cliff and scar
The horns of Elfland faintly blowing!
Blow,let us hear the purple glens replying:
Bugle,blow ; answer,echoes,
dying,dying,dying.

O love,they die in yon rich sky,
They faint on hill or field or river:
Our echoes roll from soul to soul
And grow for ever and for ever.
Blow,bugle,blow,set the wild echoes flying,
Bugle,blow ; answer,echoes,
dying,dying,dying.

日が影を射しかけるのは城壁と
雪を抱く峰 いにしえの物語
長く伸びた光が湖を横切って揺れ
激しい滝の飛沫は輝かしく跳ねている
吹け。角笛を。こだまを呼び起こせ
角笛を吹け。答えるこだまは
消え行く、消えゆく、消え行く...

おお聞け 聞け! なんとか弱くまた澄み渡って
さらにか弱く、澄み渡り、さらに遠くへと消え去っていく音を!
おお やさしく そしてこの断崖からはるか遠くで
妖精の国の角笛がかすかに鳴り響いているのを!
吹け、われらに茜色の峡谷の残響を聞かせよ
角笛を吹け。答えるこだまは
消え行く、消えゆく、消え行く...

おお 愛よ こだまはこの広い空へと消え行く
丘に、野に、そして川にと薄らいでいく
だが我らのこだまは心から心へと響き渡り
永遠に 永遠に満ち溢れるのだ
吹け。角笛を。こだまを呼び起こせ
角笛を吹け。答えるこだまは
消え行く、消えゆく、消え行く...


イギリスといえば、このテニスンをはじめ、シェリー、バイロン、ミルトン、ワーズワースと、日本人になじみの大詩人が数多くいますし、クラシック音楽でもエルガー・ディーリアスと熱烈なファンがいるにもかかわらず、歌曲の世界はあまりぱっとした人気がないような気がします。
実際はこの曲のように、自然の美しさを賛える詩に牧歌的な美しいメロディーのついた素晴らしいものがたくさんあり、比較的聞き取りやすい(古い英語なのでちょっとつらいところもありますが)言葉とあいまって非常に聴き甲斐のあるジャンルだと私などは感じているのですが。
ブリテンという作曲家は、小編成のアンサンブルで素晴らしい色彩感を描き出す人ですし、20世紀オペラで数々の傑作を遺した人ですから、英語に対する響きをとても大切にした歌曲がたくさんあるのも当然といえましょうし、このテノール・ホルン・弦楽のためのセレナードの中のこの曲は、荘厳な自然を実に見事に描写しています。
冒頭、弦が弾けるように歌う中、テノールが聳え立つ峰や太陽の美しさを賛え、ホルンのこだまがそれに答えます。
声とホルンの掛け合いで、「消え行く、消え行く、消え行く...」(Dying,Dying,Dying...)がそれに続きますが、歌声と一緒にホルンもデクレッシェンドで消え行くところは、空の彼方からこの美しい自然を眺めているようでとても印象的です。
この、「テノール・ホルンと弦楽のためのセレナード」、伴奏楽器だけのプロローグに始まり、「Pastral(詩:コットン)」・「Nocturne(詩:テニスン)」・「Elegy(詩:ブレイク)」・「Dirge(詩:15世紀読み人しらず)」「Hymn(詩:ジョンソン)」・「Sonnet(詩:キーツ)」に伴奏だけのエピローグと続きます。
イギリスの大詩人たちの詩をブリテンがどう料理しているか、ぜひお確かめ下さい。
CDは、彼のよき解釈者としてならしたピーター・ピアーズの歌に作曲者自身がイギリス室内管を指揮した録音があり(Decca)これが決定版といえるのかも知れません。ホルンの名手タックウェルも見事です。このCDランボーのフランス語の詩に付けた「テナーと弦楽のためのイルミナシオン」の絶唱も収録されており、これをまず聴いてから彼の様々な声楽曲(特にオペラ!)に手を伸ばして行くのがよいかと思います。 (1999.10.10)

これは私にとってもかなり昔の翻訳で、今以上に拙さが目立つひどい訳でしたので、この訳詞を取り上げて下さるというチャンスを利用して根本的に見直しました。これはアルフレード・テニスン卿の物語詩「The Princess」の中の一節なのだそうで、ここから取られた有名な歌曲作品としてはクィルターの「今深紅の花びらは眠り」があります。
鮮烈な弦楽器の響きと、ホルンの遠くから聞こえてくるようなこだまの響きの表現が大変鮮烈です。

( 2007.09.15 藤井宏行 )


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