アンデルセンの晩 |
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わたしは月夜の鸛(こふのとり) 夜になりやおぎやをと連れて行こ。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 どこかに赤ちやんいらないか。 わたしは蟇(ひき)の子気がきつい、 あたまに宝石はめてゐる。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 三つ子のたましひ見ておくれ。 わたしは蝸牛(ででむし)、白い家、 となりの蝸牛、黒い家、 小父さん、小父さん、アンデルセン。 牛蒡も林になりました。 わたしは小さな薔薇の鬼、 なんでも見てゐる、聴いてゐる、 小父さん、小父さん、アンデルセン。 いつでもお日さんぴかぴかだ。 わたしは厩の甲虫、 空から空へと旅してく、 小父さん、小父さん、アンデルセン。 とつても世界はうつくしい。 わたしは赤靴、をどり靴、 をどれやをどれと飛んでゆく。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 畠も牧場も飛び超える。 わたしは莢(さや)まめ、ゑんどまめ、 はぢけてころげりや、苔のした。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 芽が出て、花咲き、また実る。 わたしは醜い、鶩の子、 つつかれ、つつかれ、水の上。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 いついつスワンになれますの。 わたしは貧しいマツチ売り、 凍えて夜っぴて雪のうへ。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 マツチの燃しくづあかるいな。 わしらは夢見る、駆けまはる、 子供はたましひをどつてる。 小父さん、小父さん、アンデルセン。 今夜もお話しておくれ。 |
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「アンデルセンの姿画」同様、1925年の作家没後50周年を記念して書かれたものです。「赤い靴」や「みにくいアヒルの子」「マッチ売りの少女」といった今でもポピュラーなお話の他にもいくつも今では語られなくなってしまった童話のエピソードが織り込まれています。当時はこういった断片的な表現だけでも多くの人には何のお話か分かったのでしょうか。これも第一番しか楽譜に記載はありませんでしたが、興味深いので全節を転記しました。こちらはいかにも童謡らしいからでしょうか、白秋の童謡詩集「月と胡桃」の最後を飾っています。
( 2015.10.17 藤井宏行 )