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Erster Verlust    
 
初めてなくしたもの(失われた初恋)  
    

詩: ゲーテ (Johann Wolfgang von Goethe,1749-1832) ドイツ
      Erster Verlust (1789)

曲: ツェルター (Karl Friedrich Zelter,1758-1832) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Ach,wer bringt die schönen Tage,
Jene Tage der ersten Liebe,
Ach,wer bringt nur eine Stunde
Jener holden Zeit zurück!

Einsam nähr' ich meine Wunde,
Und mit stets erneuter Klage
Traur' ich um's verlorne Glück

Ach,wer brigt die schönen Tage,
Wer bringt die holde,süße,
liebe Zeit zurück?

ああ、あの美しい日々を誰が取り戻してくれるのか
初めて恋をしたあの日を
ああ、たったひとときだけでも
あの素晴らしい時をふたたび取り戻してくれるのは!

私はただひとり、自分の傷を癒す
絶え間なく襲ってくる悲しみと共に
失われた幸せを夢みつつ

ああ、あの美しい日々を誰が取り戻してくれるのか
誰があの素晴らしくも甘い
初めて恋をしたあの時をもう一度?


ゲーテの「初恋」の思い出に寄せる有名な詩、1785末、ゲーテ30代半ばの詩です。
シンプルさの中にしみじみとした味わいで現代の若者にも通じる初恋の痛みを、甘酸っぱい思い出と共に振り返っています。
この詩には若き日のシューベルトも曲を付けているのですが、もう少し後の名作群の素晴らしさに比べるといまひとつ私には魅力が乏しく思えますし、この素朴とさえ言える詩にはシューベルトの音楽は少々柄が大き過ぎるような気もします。
むしろゲーテの親友としてゲーテからの書簡など文学史上で名前が残っているこのツェルターの曲の方がこの詩に付けた曲としては数段素敵だと思っています。
彼はおびただしい数のゲーテの詩に曲を付けていますが、そのすべてが今やほとんど忘れ去られてしまいました。
しかし改めて聴いてみると、同世代のハイドンやモーツァルトの歌曲のスタイルをより民謡風に素朴にしたところが、ゲーテでも特にこのようなストレートな詩では絶妙な効果を上げていて、決して捨てたものではありません。

ツェルターはこの詩に、前奏を全く付けずに「ああ」と溜め息でいきなり曲を始めます。
なくした恋の歌ですから普通なら短調にするところ、ここではしみじみとした長調のメロディが一層味を出してくれています。
この曲にはF=ディースカウの名唱があるのですが(Orfeo)、その美声と考え抜かれた技巧には敬意を表しつつも、私はより素朴なMammelのテナー、Holtmeierのクラヴィア伴奏のARS MUSICI盤が、この曲の魅力はより引き立っているように思えます(AM1255-2)。
このCDではゲーテの詩に付けた作品が30曲、「ミューズの子」や「さすらい人の夜の歌」などシューベルトの作品でおなじみのものから、歌物語としてとても面白い「魔法使いの弟子」まで多彩なツェルター歌曲の魅力を堪能できます。
モーツァルトの歌曲を更に一層しみじみとしたような味わい、ゲーテ自身が高く評価したというそのスタイルをぜひシューベルトのものと比較されてみてはいかがでしょうか?

( 2003.02.09 藤井宏行 )


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