Haiku of Basho |
芭蕉の俳句 |
古池や蛙飛びこむ水の音 蚤虱馬の尿する枕もと 初時雨猿も小蓑を欲しげなり 一家に遊女もねたり萩と月 池あらば飛んで芭蕉にきかせたい 仙(1750-1837) |
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松尾芭蕉の俳句に曲を付けている作品はおそらく他にもたくさんあるのだと思いますが、ここでアメリカの現代作曲家ワーニックの作品を取り上げたのは、これが邦人作曲家以外では私の知る限り唯一翻訳でない原詩、つまり芭蕉の俳句そのままに曲を付けている作品だからです。しかも奥の細道の有名な句ばかり。最後に芭蕉より約100年あとの博多の禅僧、仙高フ「古池や」に想を得たユーモラスな俳句が出てきます。
もっとも、曲はばりばりのゲンダイオンガクなので、日本語で歌われていることは、打楽器のやかましい響きや耳をつんざくピッコロや弦楽器の音の蔭から聞こえてくるソプラノの声を相当耳を澄まして聴かないと分かりません。
しかも日本語のイントネーションやリズムなどはハナから考えていないフシがありますので、特にこれが芭蕉や日本語である必然性はあまり感じられませんけれども...
作曲家のワーニックは1934年ボストンの生まれ。他にも日本の詩を使った声楽作品を書いているようですが、作品を聴いた感じではシェーンベルク、ウェーベルンに繋がる前衛の人です。アメリカのこの手の作品をたくさん録音しているCRIというレーベルで、クルシェネックやロックバーグ、シェーファーといった他の前衛の声楽曲と一緒に、ネヴァ・ピルグリムのソプラノ、シカゴ大の現代室内楽アンサンブルの伴奏で聴くことができます。
日本の伝統の「幽玄」や「ワビ・サビ」など微塵も感じられないその音楽を楽しんで聴けるか腹を立てるかはあなたの度量次第。私は多彩な打楽器や管楽器の色彩感を楽しませて頂きました。シェーンベルクの「月に憑かれたピエロ」をかなりけばけばしくしたようなやかましい音楽ではありますが、大熱演で楽しいです。
むしろ、今回調べての一番の収穫は、仙高ニいうユニークな人物に出会えたことでしょうか。
こんな句を作ることからも分かるように豪放磊落な禅の大物。いろいろなエピソードにも事欠かなかったようです。
http://www.mars.dti.ne.jp/~tnishida/senngai2.html
http://record.museum.kyushu-u.ac.jp/sengai/
芭蕉が瞑想に耽って句を考えているそばで、池に飛び込む仙腰a尚の光景、禅画にして見てみたいものです。
( 2004.01.18 藤井宏行 )