木兎 三好達治による四つのうた |
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木菟が鳴いてゐる ああまた木菟が鳴いてゐる 古い歌 聴きなれた昔の歌 お前の歌を聴くために 私は都にかへってきたのか・・・ さうだ 私はいま私の心にさう答へる 十年の月日がたった その間に 私は何をしてきたか 私のしてきたことといへば さて何だらう・・・・・ 一つ一つ 私は希望をうしなった ただそれだけ 木菟が鳴いてゐる ああまた木菟が鳴いてゐる 昔の聲で 昔の歌を歌ってゐる それでは私も お前の真似をするとしよう すこしばかり歳をとった この木菟もさ |
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この詩につけた歌曲では中田喜直のものが圧倒的に有名でよく取り上げられるようですが、別宮貞雄の書いたこの曲の方も忘れられるには惜しい傑作だと思います。
両者にとっての代表作「さくら横ちょう」を思い出すまでもなく、このふたり、結構取り上げる詩がかぶっているような気がします。この「木兎」別宮作品は1977年の作曲。中田作品がドラマティックなインパクトで聴かせる力作とすれば、この別宮作品は語りのイントネーションを見事に生かした深みのある歌。悔恨の嘆きが抑えられた抑揚の言葉にじんわりと滲み出してくるのが見事です。「さて何だらう」の反問のところや、最後の「それでは私も」のところから幕切れのところまでの吐き捨てるような語りはことのほか見事です。鮫島有美子さんの「日本歌曲選集2」に他のいくつかの別宮作品と一緒に収録されています。
( 2015.04.25 藤井宏行 )