紺屋のおろく |
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にくいあん畜生は紺屋のおろく 猫をかかへて夕日の浜を 知らぬ顔してしやなしやなと にくいあん畜生は筑前しぼり きゃしゃな指さき濃青に染めて 金の指輪もちらちらと にくいあん畜生が薄情な眼つき 黒い前掛毛繻子かセルか 博多帯しめからころと にくいあん畜生とかかへた猫と 赤い入日にふとつまされて 潟に陥つて死ねばよい ホンニ ホンニ... |
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フランス仕込の優雅なメロディを得意としていた高木は、日本の伝統音楽を劣ったものであるかのような発言をされていたこともあったと記憶しているのですが、それにしてはこの曲は見事なまでの日本情緒あふれる歌曲です。伴奏のピアノなど筝曲を思わせるなかなかの雰囲気。なんでも高木が中学の頃から愛唱していた詩なのだそうで、そんなところもこの思い切った作曲につながっているのかも知れません。詩は白秋の柳河での少年時代の思い出を綴ったもののひとつ。明治44年(1914)の詩集「思ひ出」からです。紺屋(こうや)のおろくはお金持ちのお嬢様でしょうか。猫を抱いておめかしして、そこらあたりの男の子なんぞ眼中にもないといったオーラを沈みゆく夕日の中で漂わせています。鮫島有美子さんの「日本歌曲選集5」(DENON)冒頭に収録されています。
( 2015.04.19 藤井宏行 )