因幡万葉の歌五首 |
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新しき 年の始の初春の 今日降る雪のいや重け吉事 (大伴家持 万葉集全巻の最後) 春の野に 霞みたなびきうら悲し この夕かげに 鶯鳴くも (大伴家持 万葉集巻19) 春の苑 紅にほふ桃の花 下照る道に 出で立つ娘子 (大伴家持 万葉集巻19) さ夜ふけて 暁月に影見えて 鳴くほととぎす 聞けばなつかし (大伴家持 万葉集巻19) わがせこが 面影山のさかゐまに 我のみ恋ひて 見ぬはねたしも (大伴坂上郎女 古今和歌六帖巻4) |
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北海道で生まれ育った伊福部ですが、父の代までは因幡の国(鳥取県)の宮司を務めていた古代豪族の末裔なのだそうです。そんな縁もあって1994年、鳥取に因幡万葉資料館ができる際の開館記念の委嘱作としてこの曲が書かれました。万葉記念館ですから当然に歌詞は万葉集より。大伴家持が因幡の国司として赴任中に詠んだ歌四首と、彼の叔母で妻の母親でもある大伴坂上郎女がその赴任中の彼を思って詠んだ一首からなります。ソプラノのソロに、アルトフルートと二十五弦筝というユニークな伴奏がついた興味深い歌曲集です。初演者でもある藍川由美さんのソプラノに中川昌巳さんのフルート、野坂恵子さんの筝による演奏がカメラータにある歌曲全集に収録されています。
( 2015.01.01 藤井宏行 )