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Dors,mon enfant   WWV 53  
 
子守歌  
    

詩: 不詳 (Unknown,-) 
      

曲: ヴァーグナー (Richard Wagner,1813-1883) ドイツ   歌詞言語: フランス語


Dors entre mes bras,
Enfant plein de charmes!
Tu ne connais pas
Les soucis,les larmes;
Tu ris en dormant,
À ton doux sourire,
Mon coeur se déchire;
Dors,ô mon enfant!

Dors sur les genoux
De ta pauvre mère,
Car le sort jaloux
T'a ravi ton père;
Je veille en tremblant
Sur ta faible enfance,
Dors,mon espérance,
Dors,ô mon enfant!

Dors et ne crains rien,
Car si tu sommeilles,
Ton ange gardien,
Ta mère,te veille,
Le repos descend
Sur ton front candide,
Dors sous mon égide,
Dors,ô mon enfant!

おやすみ、私の腕の中で
かわいさでいっぱいの坊や
お前は知らないの
悩みも、悲しみも
微笑みながら眠りにつく
お前の優しい微笑みは
私の心を震わせる
おやすみ、ああ私の坊や

おやすみ、膝の上で
お前の哀れな母さんの膝の上で
妬み深い運命のために
お前はお父さんを奪われたのだけれど
私は震えながら見守るわ
お前のかよわい赤ちゃんの時代を
おやすみ、私の希望
おやすみ、私の坊や

おやすみ、何も恐れずに
お前が眠っている間
お前を守る天使と
お前のお母さんが見守ってあげるから
安らぎが表れてくるように
お前の無邪気な顔の上に
おやすみ、私の盾の中で
おやすみ、私の坊や


ワーグナーは若い頃、パリで仕事を得るために何曲か歌曲を書いたのだそうで、その中の一曲がこれです。
作詞者は不祥なようですがフランス語の詩で、他方メロディの方は既に彼の個性が出ているため、フランス語で楽劇を聴いているような不思議な感覚です。
実際イメージとしては彼の歌劇「さまよえるオランダ人」の水夫の合唱とよく似たメロディで”Dors, o mon Enfant”と歌うところなど、まさにこの歌劇のヒロイン・ゼンダのバラードを聴いているような感じといったら当たっているでしょうか。
(この曲の作曲が1840年、オランダ人が1842年ですから確かに非常に近い年代の作ではあります)

歌唱としては今ひとつのところはありますが、この曲を含めて彼の最初期の歌曲ばかりを集めているワーグナー歌曲集(Classico)のローン・コッペルの録音(珍しいゲーテのファウストに付けた7つの歌曲集も聴けます)、あるいは世界の子守歌のアンソロジーとして非常に面白いChandosにあるナディア・ペレの歌にイ・ムジチ・モントリオールの伴奏の録音などで聴くことができます。
後者は選曲が(クラシック歌曲ばかりですが)非常に面白く、シューベルトやブラームスの有名どころに加えて、ディーリアスの「ノルウエーの子守歌」、ブラーガの「ブラジルの黒人の子守歌」、 メノッティの社会派オペラ「領事」の重苦しい話の中で唯一優しく歌われる「子守歌」(もっともオペラではこの歌を聴く子供にも歌う祖母にも悲劇的な最後が待っています)、あるいはウエーバーやハイドンのものなど あまり聴けないドイツの子守歌など、たかが子守歌集と侮れない凄いものです。これだからこそワーグナーの知られざる「子守歌」なんかを引っ張り出して来たというところもあるのでしょうが。

( 2003.8.17 藤井宏行 )


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