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Im Treibhaus   WWV 91  
  Wesendonck-Lieder
温室にて  
     マチルデ・ヴェーゼンドンクの詩による歌曲集

詩: ヴェーゼンドンク (Mathilde Wesendonck,1828-1902) ドイツ
      

曲: ヴァーグナー (Richard Wagner,1813-1883) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Hochgewölbte Blätterkronen,
Baldachine von Smaragd,
Kinder ihr aus fernen Zonen,
saget mir,warum ihr klagt?

Schweigend neiget ihr die Zweige,
malet Zeichen in die Luft,
und der Leiden stummer Zeuge
steiget aufwärts,süßer Duft.

Weit in sehnendem Verlangen
breitet ihr die Arme aus,
und umschlinget wahnbefangen
öder Leere nicht'gen Graus.

Wohl,ich weiß es,arme Pflanze;
ein Geschicke teilen wir,
ob umstrahlt von Licht und Glanze,
unsre Heimat ist nicht hier!

Und wie froh die Sonne scheidet
von des Tages leerem Schein,
hüllet der,der wahrhaft leidet,
sich in Schweigens Dunkel ein.

Stille wird's,ein säuselnd Weben
füllet bang den dunklen Raum:
schwere Tropfen seh ich schweben
an der Blätter grünem Saum.

高いところでアーチを描いて冠のように茂る葉よ、
エメラルド色の天の覆いよ、
遠い地方で生まれた子供達よ、
いっておくれ、どうしておまえ達は嘆くのかを。

物言わずひっそりと枝をたれて
おまえ達は大気中にしるしをつけ、
悲しみを黙って抑えている証拠に
甘い香りを放っている

燃えるように熱心に
お前達は大きく腕を広げ、
妄想にとらわれ、惨めなむなしさを感じ
意味のない恐れをかき抱く。

かわいそうな植物よ、私はよく知っている
私達が同じ運命であることを、
明るい光の中にいようとも
私達の故郷はここではないということを!

そして太陽が楽しそうに、
うつろで明るい昼間から立ち去ると、
本当に苦しむものは
沈黙の闇に包まれるのだ。

あたりが静かになり、かすかな動きが
おずおずと暗い室内を満たすと、
重いしずくが ひっそりと揺らぐのを私は見る
緑色の葉の縁に。


「マチルデ・ヴェーゼンドンクの詩による歌曲集」はワグナーのパトロンのヴェーゼンドンク氏の妻のマチルデが書いた5つの詩に基づいてワグナーがピアノ伴奏つきの歌曲として作曲したものです。
詩自体については、彼自身あまり評価してなかったようで、彼の創作日記の中で「ディレッタントの詩」と悪口が書いてあるようです。確かにこれらの5つの詩は、(私のドイツ語の理解力では、細かいニュアンスはわからないが)内容が抽象的で難解でそう優れたものとは思えません。でもそのころマチルデはワグナーの愛人であったので、プレゼントとして作ったのでしょう。最後の「夢」という曲は、ワグナー自身が室内オーケストラ伴奏用に編曲して、マチルデの誕生日に贈り物として演奏したそうです。後年「ジークフリート牧歌」でもって、コジマにしたことと同じ事をその前にちゃんと予習していたわけでこれには笑ってしまいます。(ところでコジマとマチルデも同じサロンで知り合いの仲だったらしい)

現在よく演奏されるオーケストラの伴奏版は残念ながらワグナー自身でなく、指揮者のフェリックス・モットルが編曲をしたものです。(「夢」もふくめて)この歌曲集の中で私は「温室にて」と「夢」という歌曲が好きです。「温室にて」の詩には(彼女の実生活が反映されているかどうかは別にしても)、深い絶望と孤独が語られている。マチルデ・ヴェーゼンドンクという女性はこのような不幸が理解できる人だったのでしょう。(それにしてもちょっと、ボードレール風ではあります。当時のサロンでは、こうした傾向の詩が好まれたということもあるのでしょうか。)

ピアノ伴奏版
*フラグスタートとムーア、
30年代の録音です。何故かテンポがやたらと速く、この曲の詩の内容がわかっていないのではないかと思わせるような演奏です。フラグスタートの歌唱もきめが粗くて、即物的な感じがします。
*ナタリー・シュトゥツマンとオピッツ
曲の雰囲気はさすがによく出ていて、p中心の指定をよく守った演奏ですが、テンポが遅すぎ旋律がくずれる一歩手前という感じ。
*ミシェル・デヨングとケヴィン・マーフィ
pでもよく通る声でみごとな歌唱です。ピアノ伴奏版ではこれが良い。このCDはEMIのデビューシリーズの1枚ですが、ミシェル・デヨングはUSA出身の新人歌手です。

(参考)オーケストラ伴奏版(私見では、このオーケストラ編曲はたいしたものでなく、とてもマーラーやR.シュトラウスのオケつき歌曲と同列に論じるものではないと思います。この曲の本質はオリジナル版にあるというのが私の考えです)
*アストリッド・ヴァルナイとレオポルド・ルートヴィッヒ+バイエルン放送交響楽団
ヴァルナイの歌唱は見事な歌になっておりそれは立派ですが、この曲はこのようにワーグナーの楽劇の一部のように演奏するべきものか、私には疑問に思えます。
*ジェイン・イーグレンとドナルド・ランニクルス+LSO
現在の世界で最高のイゾルデ歌いといわれているイーグレンですが、丁寧に歌っており、曲のイメージに良くあった歌唱です。最近R.シュトラウスの指揮で名の売れ出したランニクルスも良い伴奏をしています。

( 2000.4.30 稲傘武雄 )


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