春の寺 抒情小曲集 |
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うつくしきみ寺なり み寺にさくられうらんたれば うぐひすしたたり さくら樹にすゞめら交(さか)り かんかんと鐘鳴りてすずろなり かんかんと鐘鳴りてさかんなれば をとめらひそやかに ちちははのなすことをして遊ぶなり 門もくれなゐ炎々と うつくしき春のみ寺なり |
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1986年の死去からもう30年近くが経って、この人の音楽も一部の合唱作品を除くと次第に忘れられてしまいつつあるようで寂しい限りです。清水には忘れ難い歌曲作品が色々ありますから、ここで少しずつでも取り上げてご紹介できればと思っております。以前ここで彼のオペラにも通じる叙事的な歌曲集の傑作「智恵子抄」を取り上げましたので、今回は抒情的な歌曲集の傑作として室生犀星の詩につけた「抒情小曲集」を取り上げましょう。
この歌曲集、犀星の同名の詩集「抒情小曲集(1918)」より8篇、それにもう少し後の1923年出版の詩集「青き魚を釣る人」より「春の寺」「朱の小箱」「雪くる前」「逢ひて来し夜は」の4篇を選んで書かれています。歌曲集全部ができたのは1948年頃(正確な時期は調べきりませんでした)、若き清水の油の乗り始めた頃で、この時期に彼はかなり集中的に歌曲作品を書いていたようです。
第1曲は桜の花が繚乱たるお寺の情景。鐘の音も賑やかに春の祭を祝っているかのようです。冒頭のきらめくようなピアノの高音に乗せて控え目に歌われる冒頭、鳥たちの登場で曲想が更に穏やかに変わるのが、突然の鐘の音に打ち消され、力強く盛り上がって行きます(あまり日本のお寺の鐘という感じはしないピアノでの描写ですが)。更に曲想が二転三転してから再び冒頭のきらめくピアノの響きが戻って来ます。
とにかく曲想の変化が激しいので散漫にならないように纏めるのが大変そうですが、一瞬一瞬の息を飲むような美しさが次々と繰り出されてくるのが楽しく、そして素敵な歌です。
( 2014.10.24 藤井宏行 )