海浜独唱 |
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ひとりあつき涙をたれ 海のなぎさにうづくまる なにゆゑの涙ぞ青き波のむれ よせきたりわが額をぬらす みよや濡れたる砂にうつり出づ わがみじめなる影をいだき去り 抱きさる波 哀しき波 このながき渚にあるはわれひとり ああわれのみひとり 海の青きに流れ入るごとし |
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低声のための三つの抒情歌の1曲、1946年、作曲者が戦地より復員してきたばかりの時に書かれたものなのだそうです。他の2曲は「採花」(詞:松田祐宏)・「花林(まるめろ)」(詞:杉浦伊作)。まだ若い畑中のみずみずしい感性が紡ぎ出されたとても魅力的な曲ばかりです。
この海浜独唱は犀星の詩集「抒情小曲集」(1918)より。海辺でただひとり、孤独を噛みしめながら涙を砂浜にこぼす...打ち寄せる波の音ばかりが聞こえてきそうです。
畑中はとてもゆったりしたテンポで、大海原に抱かれているような暖かいイメージでこの情景を描き出します。中間部では感情の昂ぶりがテンポを速めてちょっと乱れを生じさせますが、すぐにまたもとのメロディが戻ってきて穏やかに曲を閉じます。
あふれでる悲しみを優しいメロディで包み、決してその悲しみを表に出さないのがこの曲の魅力でしょう。
( 2014.10.04 藤井宏行 )