翡翠 四つの抒情歌 |
|
古き翡翠の玉を翳して 曇り日を仰ぎ見る わが心いつしか寂びて 人戀ふる心にはならず… ただ眺むるは 曇り日の 空のいろのみ その空さへひろがり たよりなく されど哀しむすべもなし… |
|
1989年、まだ作曲者存命中に鮫島有美子さんがヘルムート・ドイチュさんのピアノ伴奏で録音した市川都志春歌曲集のCDがありました。
こういうものもリリースされる良い時代だったのだなあ、とじっくりと聴くにつけ改めて感動。動画投稿サイトのいくつかは権利に関して包括契約を結んでいるようなので、心ある演奏家の方はこんな珠玉の日本歌曲をもっとあそこで紹介してくれると良いのにな、と思うことしきりです。諸外国(とくにロシア)がそんな点でとても充実しているので羨ましい限りです。
演奏のできない私としてはこんなところで駄文を連ねるしかないのですが、昨年末に室生犀星の著作権が切れたということもあり、鮫島さんのCDのタイトルにもなったこの曲のご紹介を致します。
この詩は詩集「高麗の花」(1924)より。どんよりと曇った日に翡翠の玉を見つめて何とはない思いに耽っています。まだ10代だった作曲者はまるでドビュッシーのような繊細なメロディをつけてこの詩のそこはかとない悲しみを見事に表現しています。
鮫島さんの録音もCDとしてリリースすることはもはやないのでしょうが、色々とNet上のツールが増えてきた昨今、いつの日かまた多くの人に聴けるようになることを祈ってやみません。
今年末には市川の好んで詩をつけた詩人 三好達治の著作権が切れます。そこでぜひまたここでご紹介できればと思っています。
( 2014.10.04 藤井宏行 )