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La brise   Op.26  
  Melodies persanes
そよかぜ  
     ペルシャのメロディー

詩: ルノー (Armand Renaud,1836-1895) フランス
    Les Nuits Persanes  Comme des chevreaux piqu?s par un taon

曲: サン=サーンス (Charles Camille Saint-Saens,1835-1921) フランス   歌詞言語: フランス語


Comme des chevreaux piqués par un taon
Dansent les beautés du Zaboulistan.
D'un rose léger sont teintés leurs ongles;
Nul ne peut les voir,hormis leur sultan.
Aux mains de chacune un sistre résonne;
Sabre au poing se tient l'eunuque en turban.

Mais du fleuve pâle où le lys sommeille
Sort le vent ainsi qu'un forban.
Il s'en va charmer leurs coeurs et leurs lèvres,
Sous l'oeil du jaloux,malgré le firman.
O rêveur,sois fier! Elle a,cette brise,
Pris tes vers d'amour pour son talisman!

蜂に刺された子ヤギのように
美女たちがザボリスタンの踊りを踊る
その爪は淡いピンクに彩られ
サルタン以外は見ることができぬ
手にはしゃらしゃら鳴る鈴
サーベルを手に立つのはターバンを巻いた宦官だ

だがユリの花達がまどろむ川のほとりでは
夜のそよかぜが巻き起こる、恋盗人のように
風は女たちの心を、くちびるを魅了していくのだ
しっとに満ちた男の目をよそ目に、掟に逆らいながら。
おお、夢見る人よ。しっかりして。
そよかぜは、お前の恋歌を呪文と間違えただけなのだから

知られざるフランスの歌曲大作家、サン・サーンスも、なかなか見逃せない作品をたくさん遺しています。だいたい彼の作品で広く有名なのが、交響曲「オルガン付き」とか「死の舞踏」とか「動物の謝肉祭」とかキワモノ系?が多いせいか、はたまた分かりやすい作品を湯水のように書く才能が「高尚な」クラシックファンにはあまり好まれないためか(同じ才能でもモーツァルトは神のように祭られているのに...)、知名度の割に聴かれる作品は本当に少ないですよね。歌曲もたくさん書いているのに、有名な曲は皆無な状態です。
確かに、同じフランスの歌曲作家でも、フォーレやプーランクのように、聴けば誰の作品かわかるような強烈な個性はありませんが、逆に詩の雰囲気に合わせてスタイルを縦横無尽に変えて聴かせるのが彼の天才的なところだと私は感じました。
その意味では、この6曲からなる「ペルシャのメロディー」というのが、私は彼の歌曲作品の中では、知る限りにおいて最高傑作だと思います。題名から予想される通り異国趣味バリバリの曲なのですが、天才サン・サーンスの手に掛かるとタダでは済みません。オープニングの曲「そよかぜ」は後程詳しくご紹介するとして、あとの5曲ですが、

「うつろな華やぎ」(ボロディン風の懐かしい中央アジア情緒を満喫)
「孤独な女」(フォーレの歌曲「マンドリン」とプッチーニ「ラ・ボエーム(第2幕)」を足して2で割ったような?名旋律)
「手に懐剣」(冒頭のコーランの朗唱風の旋律から、力感溢れる行進曲になる。
       戦に向かう武人の非常にカッコイイ誓の歌。ピアノ伴奏が凄い迫力)
「墓場にて」(墓を歌ったしみじみ系の歌曲ではヴォルフの「アナクレオンの墓」に並ぶ名曲だと思う)
「めまい(アヘンの歌)」(ピアノの目まぐるしい無窮動の上をぽつりぽつりと歌が絡む。私はクスリはやったことがないが、きっとこんな感覚なのだろう)
と、多彩な表情をこれでもか、これでもかと見せ付けてくれるものですから私はすっかりハマってしまいました。第1曲目の「そよかぜ」は、一番アラビア風の旋律が前面に出ており、第1節目はペルシャの宮殿の宴の妖しい様子をうまく描写しています。
(彼の有名なオペラ「サムソンとデリラ」のような異国情緒か?)
ところが2節目ではそういう頽廃した雰囲気(酒池肉林)から全く離れて、小川を渡って恋する人のところに想いを届けるそよ風のいたずらを、優しく、可愛らしく歌います。この間伴奏に流れるリズムは一貫して「ズンタ・タッタ」のままなのですが、ここの所の表情のハッとするような変化がこの曲の真骨頂でしょう。

サン・サーンスの歌曲集は私の知る限り現在2種類出ていて、私が聴いたのはETCETERAのアンネ?マリー・ロッデのソプラノの盤ですが、リリックな声を生かしてサン?サーンス作品の多彩さを余すところなく表していて非常にお薦めです。フランス歌曲でもフォーレ、デュパルク、グノーの線をお好みの方はぜひお試し下さい。
もう1枚はHyperionから出ているバリトンのル・ルーの歌ですが、こちらは未聴です。
でも、今をときめくフランスのバリトンですから、いずれ聴いてみたいものです。

( 1999.08.06 藤井宏行 )


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