At Day-Close in November Op.52-1 Winter Words |
十一月のたそがれ 冬の言葉 |
The ten hours' light is abating, And a late bird wings across, Where the pines,like waltzers waiting, Give their black heads a toss. Beech leaves,that yellow the noon-time, Float past like specks in the eye; I set every tree in my June time, And now they obscure the sky. And the children who ramble through here Conceive that there never has been A time when no tall trees grew here, That none will in time be seen. |
十時間の昼の光も今や弱まって 帰りそびれた鳥が羽ばたいて通り過ぎる 松の木々が ワルツの順番待ちの踊り手のように 黒い頭を揺り動かしている ブナの葉は 昼時には黄色に染まっていたが 漂い通り過ぎて行く 目の中のしみのように この木々は わが人生の六月に植えたものだ 今やそれがこの空を覆っている このあたりを歩き回る子供たちは 思い込んでいる 決してなかったのだと ここに高い木々が生えていなかった時など そしてやがて何も見えなくなることも思いもせずに |
トマス・ハーディーの詩は全部で1000篇近くあるようです。抒情的なものから哲学的なもの、ドラマの一節のような写実的なものからシニカルでナンセンスなものまでほんとうに多彩で、近代イギリスの作曲家は好んで彼の詩にメロディを付けています。
ベンジャミン・ブリテンもまたこのハーディーの詩は愛していたようで、彼の壮年期に8曲からなるハーディーの詩によるピアノ伴奏の歌曲集「冬の言葉」を書いています。
「冬の言葉」とは言いながら、決して冬を題材とした詩を集めている訳ではなくて、色々な季節の様々な詩を集めてごった煮のような歌曲集としています。「冬の言葉」というのはハーディーの8番目の詩集のタイトルなのですが、この詩集から取られているのは第6曲の「誇り高い歌い手」だけです。
ブリテンの好みが反映されているのでしょうか。第2・5・7曲のようにあまり他の作曲家が曲をつけていないドラマのワンシーンを彷彿とさせる詩が選ばれていたりして、詩を読んでいるだけでも面白いです。メロディも彼の壮年期の力のこもったものなので、人によってはこの歌曲集がブリテンのピアノ伴奏による独唱歌曲の中の最高傑作とすることも多いようです。確かに聴きごたえのある作品です。
第1曲目は時の流れの空しさを晩秋の夕暮れにしみじみと述懐している歌です。これはハーディー以外の詩人でも良くテーマに取り上げていそうな詩ですが「冬の言葉」という歌曲集タイトルの冒頭の歌としては絶妙な詩の選択とも言えましょうか。ハーディーの第4詩集「Satires of Circumstance」よりの詩です。
( 2013.11.23 藤井宏行 )