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おてくさんと木座野    
  喜歌劇「カフェーの夜」
 
    

詩: 益田太郎冠者 (MasudaTaroukajya,1875-1953) 日本
      

曲: 佐々紅華 (Sassa Kouka,1886-1961) 日本   歌詞言語: 日本語


もしもし、そこへ行くのは
おてくさんじゃないか

 わたしを呼ぶのはだれだ

アア嬉し見違いもないおてくさん
おてくさん、おてくさん、ちょっと待ってください
おてくさん、おてくさん、ちょっと待ってください
話があるからちょっと待って

 いけない、いけない、離してください
 いけない、いけない、離してください
 わたしは急ぎの用がある

用があるなら、わたしがします
どうぞしばらく、待ってください

 はなせ
待って
 はなせ
まって
 そんなに言うならこれでもかっ(ぴしゃり)

ア痛たタッタ、ア痛たタッタ、ア痛たタッタタッタター
ア痛たタッタ、ア痛たタッタ、ア痛たタッタタッタター

 こりゃ面白い、こりゃ面白い
 あんまり悪ふざけ する天罰さ
 こりゃ面白い、こりゃ面白い
 こりゃほんとに いい気味だ

こりゃ痛いな、こりゃ痛いな
横面なぐられ 眼から火が飛び出た
こりゃ痛いな、こりゃ痛いな
なんぼなんでもこりゃヒドい...
(以下略)



皆様は昨年秋にCDで再発売された「懐かしの浅草オペラ」というアルバムをご存知でしょうか。あまりクラシックの棚には置いていそうもないものですし(私も演歌・その他のコーナーでみつけました)、レコード芸術とかが大々的に取り上げそうなものでもないので(最近読んでないので知りませんけど)知られざる珍品といえば言えないこともないのですが、日本のクラシック受容の歴史の上で無視できない豊穣な内容のアルバムだと私は思いました。
もともとこれは昭和39年にLPで発売されたものの復刻なのだそうですが、何がまず素晴らしいといってあの日本の喜劇王、エノケンこと榎本健一がライナーノートを書いていることで、浅草オペラ華やかなりし頃の熱気を垣間見ることのできる名解説です。その上彼の名唱も「わしゃ貴族だよ」(スッペの「ボッカチオ」より)とオッフェンバックの「ブン大将」の2曲、良い音質でたっぷり聴けます。
その他にも、今や忘れられてしまったのが勿体ない、アイヒベルグ作曲の「アルカンタラの医者」とか、プランケットの「コルビーユの鐘」など意外と素敵なオペレッタの名曲が聴けたりして楽しいのですが、一番強烈で爆笑してしまったのがご紹介するこの曲です。
(オペレッタのメロディなのでここで紹介するのは少々反則っぽいですが)
この曲、三井財閥の御曹司にして元帝劇の作家兼重役の益田太郎冠者が書いたミュージカルプレイ「カフェーの夜」から、気障な紳士・木座野とヒロイン・おてくさんが日比谷の野外パーティでバッタリ出合うなれそめの歌なのだそうです。
ちょろっとだけ詩を紹介しましたが、これはまさに大衆演劇の王道とも言える場面設定、で、この会話をオペラのレシタティーボのように歌うミスマッチがまず最初のインパクト、続いてひっぱたかれた木座野が、アイタタッタと痛がって歌う旋律がシュランメルンの行進曲「ウィーンはいつもウィーン」で、これが妙にハマって笑いが込み上げてきます。
そして何が素晴らしいといって歌手2人の熱演、なにせ友竹正則と楠トシエの2人なのでムードは全く三木トリローの世界(若い方は知りませんかね。ごめんなさい)、ウインナ・オペレッタと日本の大衆演劇の奇妙な融合が大正時代の帝劇で聴けたなんていうのは何だかとても嬉しくなるではありませんか。
是非多くの方に聴いて頂きたい傑作です。 (1999.05.18)

このCDではここまでですが、山野楽器が出しているCD「浅草オペラ」ではSPの復刻で、このあと「庭の千草」と「フニクラ・フニクラ」が出てきてさらに楽しい。ほんとに大衆演劇の味わいたっぷりでした。
益田太郎氏の著作権が今年切れたはずなので詩の部分を追加し、作曲者を正しい?ものに改めました。

( 2004.09.19 藤井宏行 )


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