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Dies irae   Op.66-2  
  War Requiem
怒りの日(ディエス・イレ)  
     戦争レクイエム

詩: 聖歌 (Hymn,-)   &  オーウェン (Wilfred Edward Salter Owen,1893-1918) 
    死者のためのミサ曲  Dies irae / Voices & The next war & Sonnet: On Seeing a Piece of Our Artillery Brought into Action & Futility (Owen)

曲: ブリテン (Edward Benjamin Britten,1913-1976) イギリス   歌詞言語: ラテン語/英語


Chorus
Dies irae,dies illa
Solvet saeculum in favilla
Teste David cum Sibylla.

Quantus tremor est futurus,
Quando judex est venturus,
Cuncta stricte discussurus.

Tuba mirum spargens sonum
Per sepulchra regionum
Coget omnes ante thronum.

Mors stupebit,et natura,
Cum resurget creatura,
Judicanti responsura.


Baritone solo
Bugles sang,saddening the evening air;
And bugles answered,sorrowful to hear.

Voices of boys were by the river-side.
Sleep mothered them; and left the twilight sad.
The shadow of the morrow weighed on men.

Voices of old despondency resigned,
Bowed by the shadow of the morrow,slept.

(From Owen's “Voices”)


Soprano solo and semi - chorus
Liber scriptus proferetur,
In quo totum continetur,
Unde mundus judicetur.

Judex ergo cum sedebit,
Quidquid latet,apparebit:
Nil inultum remanebit.

Quid sum miser tunc dicturus?
Quem patronum rogaturus,
Cum vix justus sit securus?

Rex tremendae majestatis,
Qui salvandos salvas gratis,
Salva me,fons pietatis.


Tenor and baritone soli
Out there,we've walked quite friendly up to Death:
Sat down and eaten with him,cool and bland,-
Pardoned his spilling mess-tins in our hand.
We've sniffed the green thick odour of his breath,-
Our eyes wept,but our courage didn't writhe.
He's spat at us with bullets and he's coughed
Shrapnel. We chorused when he sang aloft;
We whistled while he shaved us with his scythe.

Oh,Death was never enemy of ours!
We laughed at him,we leagued with him,old chum.
No soldier's paid to kick against his powers.
We laughed,knowing that better men would come,
And greater wars; when each proud fighter brags
He wars on Death - for Life; not men - for flags.

(From Owen's “The Next War”)


Women's chorus
Recordare,Jesu pie,
Quod sum causa tuae viae:
Ne me perdas illa die.

Quaerens me,sedisti lassus:
Redemisti crucem passus:
Tantus labor non sit cassus.

Juste Judex ultionis
Donum fac remissionis
Ante diem rationis.

Ingemisco,tamquam reus:
Culpa rubet vultus meus:
Supplicanti parce,Deus.

Qui Mariam absolvisti,
Et latronem exaudisti,
Mihi quoque spem dedisti.

Preces meae non sunt dignae:
Sed tu bonus fac benigne,
Ne perenni cremer igne.

Inter oves locum praesta,
Et ab haedis me sequestra,
Statuens in parte dextra.

Men's chorus
Confutatis maledictis,
Flammis acribus addictis:
Voca me cum benedictis.

Oro supplex et acclinis,
Cor contritum quasi cinis:
Gere curam mei finis.


Baritone solo
Be slowly lifted up,thou long black arm,
Great gun towering t'ward Heaven,about to curse;
Reach at that arrogance which needs thy harm,
And beat it down before its sins grow worse;

But when thy spell be cast complete and whole,
May God curse thee,and cut thee from our soul!

(From Owen's “Sonnet: On Seeing a Piece of Our Artillery Brought into Action”)


Chorus
Dies irae,dies illa
Solvet saeculum in favilla
Teste David cum Sibylla.

Quantus tremor est futurus,
Quando judex est venturus,
Cuncta stricte discussurus.

Soprano solo and chorus
Lacrimosa dies illa,
Qua resurget ex favilla
Judicandus homo reus.
Huic ergo parce Deus:


Tenor solo
Move him into the sun -
Gently its touch awoke him once,
At home,whispering of fields unsown.
Always it woke him,even in France,
Until this morning and this snow.
If anything might rouse him now
The kind old sun will know.

Soprano solo and chorus
Lacrimosa dies illa...

Tenor solo
Think how it wakes the seeds -
Woke,once,the clays of a cold star.
Are limbs,so dear-acheived,are sides,
Full-nerved - still warm - too hard to stir?
Was it for this the clay grew tall?

Soprano solo and chorus
...Qua resurget ex favilla...

Tenor solo
Was it for this the clay grew tall?

Soprano solo and chorus
...Judicandus homo reus.

Tenor solo
- O what made fatuous sunbeams toil
To break earth's sleep at all?

(From Owen's “Futility”)


Chorus
Pie Jesu Domine,
Dona eis requiem.
Amen.

合唱
怒りの日 その日こそ
この世界は灰になる 
ダビデとシビラの預言として

大きな震えがくるであろう
審判者がやって来られて
すべてを激しく破壊するときには

ラッパが不思議な音を響かせる
世界中の墓の上に
すべての者は王座の前に駆り集められるのだ

死は驚くのだ そして自然も
創造されし人間が復活し
審判者に答えんとすることに


バリトン・ソロ
ラッパは歌った 夕暮れの空を悲しくしながら
そしてラッパは答えた、哀しげに聞こえるように

少年兵たちの声は川岸にあった
眠りが彼らの母となり 夕暮れを悲しいままとしていた
明日の影が重く男たちの上にのしかかった

古い失望の声は止み
明日の影にうなだれさせられて、眠ったのだ

(『声』より)


ソプラノ・ソロ、小合唱
書き記された書物が差しだされる
その中にすべてのことが
それによって世界は裁かれるのだ

そして審判者がその席に着く時に
隠されていたことはすべて明らかになり
罰されないものは何もない

そのとき哀れな私は何を言おう?
誰を弁護人に頼めば良いのか
正しい人さえも安心のできないその時に?

恐ろしき威厳にあふれる王よ
救われるべき者を恵みもてお救いになる王よ
われを救いたまえ 慈悲の泉よ


テノールとバリトン・ソロ
戦場で 俺たちはとても親しげに死に向かって歩いて行った
座ってやつと一緒に飯を食った 冷静に穏やかに
やつの飯盒からのおこぼれを俺たちの手に受けながら
俺たちはやつの吐息の青臭い濃い匂いを嗅いだ
俺たちの目は濡れたが 勇気は身悶えすらしなかった
やつの唾は銃弾となって俺たちに吐きかけられ やつの咳は
散弾の破片となった 俺たちは唱和した やつが空中で歌う時
俺たちは口笛を吹いた やつが俺たちを大鎌で刈り倒す時にも

おお 死は決して俺たちの敵じゃなかった!
俺たちはやつのことを笑い やつと手を組んだ 古い戦友と
どんな兵士もやつの力に逆らって報われることはない
俺たちは笑った もっと優れた人間たちがやってくることを
偉大な戦争がくることを知っていたから その時誇り高い戦士は自慢するのだ
自分は生のために死と戦うのだ 旗のために人と戦うのではないと

(『次の戦争』より)


女声合唱
思い出したまえ 慈悲深きイエスよ
御身がやって来られた理由を
われをその日に滅ぼし給うな

われを探して 御身は疲れ、腰をおろされました
苦しみの十字架で、救いをもたらされました
これほどの苦しみが無駄になりませんように

裁きを下し給う正しき審判者よ
赦しの恩寵を与え給え
裁きの日の前に

われは罪人のようにうめき
罪でわが顔を赤らめます
許しを請う者に慈悲を与え給え 神よ

マグダラのマリアを許し
盗賊の願いをもお聞き入れになった御身は(ルカ23:39-43)
われにも希望を与え給えり

わが祈りは価値あるものではないが
優しく寛大にしてください、
永遠の炎に焼かれぬように。

われを羊たちの中に置き、
牡山羊からは遠ざけて
御身の右側においてください。(マタイ25:31-34)

男声合唱
黙らされ 呪われし者共に
激しい炎に判決が下されたのち
祝福された者たちと共にわれを呼び給え

われはひざまずき、ひれ伏して懇願せり
灰のように砕かれた心で
私の最後の時を御心にかけ給え

  
バリトン・ソロ
ゆっくりと持ち上げよ! お前 長く黒い腕よ!
天に向かって聳える巨大な大砲よ いまや呪いを吐かんとし
お前の危害を必要としているあの傲慢に手を伸ばせ
そして、その傲慢を打ち負かすのだ その罪がひどくなる前に

だが お前の魔力が完全にあまねくかけられた時には
神がお前を呪いますように そしてお前をわれらの魂から切り離しますように!

(『ソネット:戦闘に駆り出された我らの大砲の一部を見て』より)


合唱
怒りの日 その日こそ
この世界は灰になる 
ダビデとシビラの預言として

大きな震えがくるであろう
審判者がやって来られて
すべてを激しく破壊するときには

ソプラノ・ソロと合唱
涙にくれる その日こそ
灰の中よりよみがえる日
裁きを受けるべき罪人が
この者を慈しみ給え 神よ


テノール・ソロ
彼を運べ 太陽の下に
穏やかにその日差しは彼をかつて目覚めさせていたのだ
故郷で まだ種の蒔かれていない畑のことをささやきながら
いつも太陽は彼を目覚めさせたのだ このフランスの地にあっても
今朝までは この雪の中
今 彼を目覚めさせるものがあるのだろうか
あの親切な昔なじみの太陽なら知っているだろう

ソプラノ・ソロと合唱
涙にくれる その日こそ

テノール・ソロ
考えて見よ 太陽がどうやって種子に生命を与えるのかを
かつて目覚めさせたことを 冷たい星の土くれを
この手足は とても丁寧に造られた この脇腹は
神経が通い まだ温かいのに もう動かすのは無理なのか?
こんなことのために土くれは大きく成長したというのか?

ソプラノ・ソロと合唱
灰の中よりよみがえる日

テノール・ソロ
こんなことのために土くれは大きく成長したというのか?

ソプラノ・ソロと合唱
裁きを受けるべき罪人が

テノール・ソロ
おお 何が一体 この愚かな日の光に苦労させて
大地の眠りを覚まさせたのだろうか?

(『むなしさ』より)


合唱
慈悲深きイエス 主よ
彼らに平安を与え給え
アーメン


古今東西のレクイエムでも、最も規模が大きくインパクトの強い音楽を持ってくることの多い「怒りの日」の部分、ブリテンのこの作品でも非常に鮮烈なものとなっています。何よりもこの戦争というテーマが、「怒りの日」に深く関わっている怖れや悲しみ、そして怒りの感情に大変に良くシンクロして壮大な音楽を形作っています。間に挿入されたオーウェンの戦争詩も全部で四篇、いずれも効果的に戦争の恐ろしさを訴えています。

曲の冒頭、怒りの日の到来を告げるラッパの響きが遠くからこだまするように響いてきます。男声合唱が初めはまるで遠くから到来を告げるかのように弱く怒りの日のテーマを歌い、それを受けてブラスの響きはどんどん厚くなって行き、ドラムの力強い連打も交えて女声合唱が受け、続いて混声となるときには最初の怒りのクライマックスが訪れます。それを受けての最初のオーウェンの詩は夕暮れの寂しい空にラッパの音だけが響き、若い兵士たちが打ちひしがれて倒れている情景、木管の精妙な伴奏を交えながら穏やかにバリトンソロによって歌われます。
その歌声が静かに消え入ったのと切れ目なく、今度はソプラノのソロがラテン語で最後の審判の情景を歌い、小規模の合唱がソロに彩りを添えます。
続いてはオーウェンの何ともシニカルな詩をテノールとバリトンが、おどけた表情すら見せる死神の行進曲に乗せて速足で駆け抜けて行きます。死を覚悟した兵士たちのふっきれたような表情が印象的、最後のフレーズ「生きるために死と戦うので、旗(国家の意味でしょう)のために人と戦うのではない」というところに痛烈な戦争への怒りが満ちています。
女声合唱によるリコルダーレ(思い出し給え)は精妙に穏やかに響きますが、続いての男声合唱でテンポが速くなり、熱気を帯びて激しい祈りとなり、ドラムの強打と共にバリトンのソロでオーウェンの三番目の詩「戦闘に駆り出された我らの大砲の一部を見て」に続きます。死をもたらす大砲の姿に対する怒りをぶつけるバリトンの歌声は審判を告げるラッパの響きと絡み合って厳かであり、まるで審判の一場面のよう、合間になり続けるドラムの強打は砲声の描写でしょうか、そのまま激しい怒りの日の合唱へとなだれ込みます。嵐のような音楽の炸裂が過ぎ去ったあとはソプラノソロが合唱を伴って不思議なメロディのラクリモーサ(涙の日)を歌い、テナーのソロがオーウェンの生々しいひとりの戦死者を描写した詩「むなしさ」を歌います。
こんな形で終わりを迎えるために、神は土くれから人間を創造されたのだろうか、と。静かな歌声が合間に挟まれるラクリモーサの歌声と絡み合ってとても心動かされるレクイエムになっています。

( 2013.06.01 藤井宏行 )


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