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金金節    
 
 
    

詩: 添田唖然坊 (Soeda Azenbou,1872-1944) 日本
      

曲: 添田唖然坊 (Soeda Azenbou,1872-1944) 日本   歌詞言語: 日本語


金だ金々 金々金だ
金だ金々 この世は金だ
金だ金だよ 誰が何と言おと
金だ金だよ 黄金万能

金だ力だ 力だ金だ 
金だ金々 その金欲しや
欲しや欲しやの顔色目色
見やれ血眼くまたか目色

一も二も金 三・四も金だ
金だ金々 金々金だ
金だ明けても 暮れても金だ
夜の夜中の 夢にも金だ

泣くも笑うも 金だよ金だ
バカが賢く 見えるも金だ
酒も金なら 女も金だ
神も仏も 坊主も金だ

坊主可愛や 生臭坊主
坊主頭にまた毛が生える
生えるまた剃るまたすぐ生える
はげて光るは つるつる坊主

坊主抱いてみりゃ
めちゃくちゃに可愛い
尻か頭か 頭か尻か
尻か頭か 見当がつかぬ
金だ金だよ医者っぽも金だ

学者・議員も政治も金だ
金だチップも賞与も金だ
金だコミッションも賄賂も金だ
夫婦・親子の中割く金だ

金だ金だと 汽笛がなれば
鐘もなるなる ガンガンひびく
金だ金だよ 時間が金だ
朝の5時から 弁当箱さげて

ねぼけ眼で 金だよ金だ
金だ工場だ 会社だ金だ
女工・男工・職業婦人
金だ金だと 電車も走る

自動車・自転車・人力・馬力
靴にわらじに ハカマにハッピ
服は新式 サラリーマンの
若い顔やら 気のない顔よ

神経衰弱 栄養不良
だらけた顔して 金だよ金だ
金だ金だよ 身売りの金だ
カゴで行くのは お軽でござる

帰る親父は 山崎街道
与市べえの命と 定九郎の命
勘平の命よ 三つの命
命にからまる サイフのひもよ

小春・治兵衛 横川忠兵衛
沖の暗いのに 白帆がみえる
あれは紀の国 みかんも金よ
度胸どえらい 文左衛門だ

江戸の大火で暴利を占めた
元祖・買い占め・暴利の本家
雪の吉原 大門うって
まいた小判も 金だよ金だ

お宮貫一 金色夜叉も
安田善次郎も 鈴弁も金だ
金だ教育 学校も金だ
大学・中学・小学・女学

語学・哲学・文学・倫理
理学・経済学・愛国の歴史
地理に音楽 幾何学・代数
簿記に修身 お伽に神話

コチコチに固くなった頭へ詰める
金だ金だと むやみにつめる
金だ金だよ 金々金だ
そうだ金だよ あらゆるものが

動く・働く・舞う・飛ぶ・走る
ベルがペン先が ソロバン玉が
足が頭が 目が手が口が
人が機械か 機械が人か

めったやたらに 輪転機が廻る
金だ金だと うなって廻る
「時事」に「朝日」に「万朝」「二六」
「都」「読売」「夕刊報知」

捨子・かけおち・詐欺・人殺し
自殺・心中・空巣に火つけ
泥棒・二本棒・ケチンボ・乱暴
貧乏・ベラ棒・辛抱は金だ

金だ元から 末まで金だ
みんな金だよ一切・・金だ
金だ金だよ この世は金だ
金・金・金・金 金金金だ



今年の12月、俳優の小沢昭一氏が83歳で逝去されました。
氏は日本の昔の歌を歌い継ぐ「歌い部」としても有名で、なかでも軍歌やこの演歌(昭和に入ってからの演歌ではなく、演歌師が街中で歌う世相風刺の歌)など、今や忘れ去られつつある歌たちを今に伝えてくれる大変貴重な存在でありました。
軍歌を歌うとはいっても、その底に流れているのは反戦の心、昭和一桁の生まれとして、あの異常だった昭和初期の雰囲気を今に伝えてくれたのです。
そんな彼が愛唱したのが、反骨の演歌師・添田唖然坊の歌、とりわけとぼけたユーモア感と辛辣な歌詞が氏の持ち味にピッタリとマッチしているこの歌、唖然坊の子息・添田知道が書いたものを小沢昭一が解説を付けて2008年に復刻した朝日新書「流行り唄五十年―唖蝉坊は歌う」にCDをつけてその中でこのフルコーラスを彼が歌っています。
この歌が作られた大正14年といえば、第1次大戦中の好景気がはじけ飛んで不景気の真っただ中、その2年前には関東大震災がありましたし、治安維持法なんていう法律が作られたのもこの年です。すさんだ世相がこの歌のあちこちににも織り込まれておりますが、そんな暗さをユーモアで吹き飛ばすこの歌、まさに今に通じる名曲といえましょう。
(ストリート演歌の常で、作られた年は正確には分かりませんので正しくはこの年ではないかも知れませんがご了承を けっこう長い年月をかけて次第に出来あがってきているのかも知れません)
「政治と金」なんていう使い古された言い回しもさることながら、宗教法人も医者も資本家も教育界もマスコミも、更には庶民さえも肴になっているのが凄いところです。こんなどぎつい風刺の歌が規制やら法令やらで発表できなくなるような世の中には決してなって欲しくないところですが。

歌詞の中でいくつか補足解説を。
「お軽でござる」のところから出てくる登場人物は仮名手本忠臣蔵五段目の金にまつわる悲劇のところですね。
そのあとの「小春・治兵衛 横川忠兵衛」といえば金の絡む心中物ではこの人しかいない近松門左衛門の作品の登場人物、続いては江戸のお大尽「紀伊国屋文左衛門」の逸話が出て参ります。
そのあとのお宮貫一の登場する「金色夜叉」も「ダイヤモンドにめがくらみ」の名セリフ、今や知る人も少なくなった尾崎紅葉作の明治時代の新聞小説。
安田善次郎(1831-1921)は安田財閥の創始者である実業家、大正10年に自宅で訪れてきた国粋主義者に刺殺されます。
また鈴弁(鈴木弁蔵)は大正の外米商、農商務省のエリート官僚をたぶらかして米投資に手を出させ、彼の首を回らなくさせて役所を思うままにコントロールしようとしますが、追い詰められた彼に殺害され、バラバラ死体となって発見されます(事件は大正8年(1919)のこと)
これらの事件の生々しさがこの歌にも詠み込まれているのでしょうか。

この曲、作曲は同じ演歌師の後藤紫雲とされていることもあり、こちらの方が正しいような気もしますが、今のところ唖然坊の作ということにしておきます。

( 2012.12.30 藤井宏行 )


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