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Mond,meiner Seele Liebling   Op.104-1  
  Sieben Lieder von Elisabeth Kulmann
お月さま、わたしが心の底から大好きなお方  
     エリーザベト・クールマンの詩による7つのリート

詩: クールマン (Elisabeth Kulmann,1808-1825) ロシア
    Gemäldesammlung in vierundzwanzig Sälen - 03. Dritter Saal 9 An den Mond

曲: シューマン,ロベルト (Robert Alexander Schumann,1810-1856) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Mond,meiner Seele Liebling,
Wie schaust du heut' so blass?
Ist eines deiner Kinder,
O Mond,vielleicht unpass?

Kam dein Gemahl,die Sonne,
Vielleicht dir krank nach Haus?
Und du trittst aus der Wohnung,
Weinst deinen Schmerz hier aus?

Ach,guter Mond,ein gleiches
Geschick befiel auch mich.
Drin liegt mir krank die Mutter,
Hat mich nur jetzt um sich!

So eben schloss ihr Schlummer
Das Aug' ein Weilchen zu?
Da wich,mein Herz zu stärken,
Vom Ort ich ihrer Ruh.

Trost sei mir,Mond,dein Anblick,
Ich leide nicht allein:
Du bist der Welt Mitherrscher,
Und kannst nicht stets dich freun!

お月さま、わたしが心の底から大好きなお方
どうしてあなたは今日はそんなに青ざめて見えるのかしら?
あなたの子供のひとりが
お月さま、もしかして具合でも悪いの?

それともあなたの旦那さん、あのお日さまが
もしかしたら病気で家に帰ってきたの?
それであなたはアパートを飛び出して
つらくて ここで泣いてるのかしら?

ああ やさしいお月さま 同じような
運命がわたしにも降りかかってるのよ
家では母さんが病気で寝ているし
わたしだけしか今はそばにいないの!

母さんはやっと眠りについたから
ほんの少し目を離したところ
わたしの心を力づけようと
ここに休みにきてるのよ

わたしを慰めてね、お月さま、あなたのまなざしで
わたしはひとりでもつらくない
あなたはこの世の共同支配者だから
いつでも楽しそうではいられないのよね!


シューマン晩年の歌曲集として、傑作とは言えないかも知れませんがその思い入れの深さから注目に値するのがこの「エリーザベト・クールマンの詩による7つの歌」です。
詩人は今となっては知られざる人になっていますが、シューマンの生きていた当時は大変な人気を誇っていた女性詩人でした。なぜかと申しますとその薄幸の程度があまりに凄まじいのです。彼女はドイツ系ロシア人の家に生まれましたが、まだ幼いころに戦乱で父親と6人の兄をすべて失って母とふたりだけが残され、そして更にはこの歌曲集の最初の曲に取り上げられた詩にも見られるように母親も病に倒れ、最後には彼女自身もまた17歳の若さで1825年、病のために母親に先立ってしまったのでした。
あまりのその不幸の凄まじさに、シューマンがこの歌曲集を書いた1850年頃には、このクールマンの詩は大ベストセラーだったのだといいます。
シューマンはこの歌曲集の楽譜に、取り上げた各詩の解説を自ら書き記しています。手抜きだとお叱りを受けそうですが、シューマンのこれらの詩に対する熱い思い入れが良く分かりますし、詩人とこの曲のことを理解するよい助けとなるかと思いますので その原文と訳を載せてみます。


“Die Dichterin,den 17. Juli 1808 in St. Petersburg geboren,verlor frühzeitig ihren Vater und von sieben Briidern sechs,die Letzteren in den Schlachten der Jahre 1812-14. Es blieb ihr nur die Mutter,die sie mit zärtlicher Liebe bis an ihr Ende verehrte. Aus den zahlreichen Gedichten an sie,ist das folgende ausgewählt.”

この女性詩人は1808年7月17日にサンクトペテルスブルグに生まれ、幼くして父と7人の兄弟のうちの6人を1812-1814に起こった戦争の終わりに失った。彼女に残されたのはただ母親のみであり、彼女は優しい愛情で母を自らの最期の時まで慕い続けた。母に寄せた無数の詩の中から次のものが選ばれた。


第一曲目からいきなり不幸の極みのカウンターパンチに見舞われますが、シューマンはここではちょっとユーモラスな感じもするペーソスあふれるメロディをつけています。最後の2節はなんと長調に転調して安らかに曲は終わります。

( 2012.11.03 藤井宏行 )


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