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Vom künftigen Alter   Op.87-1 TrV 260,AV 115  
  Vier Gesänge
来たるべき老いについて  
     4つの歌

詩: リュッケルト (Friedrich Rückert,1788-1866) ドイツ
      Der Frost hat mir bereifet des Hauses Dach

曲: シュトラウス,リヒャルト (Richard Strauss,1864-1949) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Der Frost hat mir bereifet des Hauses Dach;
Doch warm ist mir's geblieben im Wohngemach.
Der Winter hat die Scheitel mir weiß gedeckt;
Doch fließt das Blut,das rote,durchs Herzgemach.

Der Jugendflor der Wangen,die Rosen sind
Gegangen,all gegangen einander nach -
Wo sind sie hingegangen? ins Herz hinab:
Da blühn sie nach Verlangen,wie vor so nach.

Sind alle Freudenströme der Welt versiegt?
Noch fließt mir durch den Busen ein stiller Bach.
Sind alle Nachtigallen der Flur verstummt?
Noch ist bei mir im Stillen hier eine wach.

Sie singet: “Herr des Hauses! verschleuß dein Tor,
Daß nicht die Welt,die kalte,dring ins Gemach.
Schleuß aus den rauhen Odem der Wirklichkeit,
Und nur dem Duft der Träume gib Dach und Fach!

Ich habe Wein und Rosen in jedem Lied,
und habe solcher Lieder noch tausendfach.
Vom Abend bis zum Morgen und Nächte durch
will ich dir singen Jugend und Liebesweh.”

霜が私の家の屋根に降りた
だが私は暖かかった 居間の中に留まっていたので
冬が私の頭を白く飾った
だが血は流れているのだ 赤い血が この心臓の中を

頬の若々しい花 バラは
失われた 皆次々と消えていったのだ
どこへ行ったのだろうか?心の中だ
そこで花は思うままに咲いているのだ 前と同じように

この世界のあらゆる喜びの流れは干上がったのだろうか?
なおも私の胸の中には 静かな小川が流れているのだが
野原のナイチンゲールたちはみな沈黙してしまったのだろうか?
なおも私の中では 静かに一羽が目覚めているのだが

鳥は歌う 「家の主人よ! お前の戸を閉じよ
この世界 冷たいものが部屋へ入らぬように
現実という荒々しい空気を閉めだして
ただ夢の香りで満たすのだ 屋根や部屋を!

私には酒とバラがある この歌の中に
そしてそんな歌がこの上に千曲もあるのだ
夕暮れから朝になるまで 夜通し
私はあなたに歌ってあげよう 青春と そして愛の痛みを」


シュトラウスの4曲からなる歌曲集作品87はバス歌手のために書かれており、人生の秋を迎えた思いをしみじみと語る、シュトラウスにしては渋い、しかし味わい深い詩の選択をしている歌曲集です。1929年から1935年という作曲者にとっても老境に入り、かつてのようなきらびやかさとは一線を画しておきたい思いも出てきたのでしょうか。それにしては変わらずお盛んだなあ、という感じの濃密な音楽ではあるのですが、華やかな中に一抹の哀感を漂わせている、彼の楽劇「バラの騎士」を連想させるような世界です。まだ「四つの最後の歌」の境地に至るには作曲者もまだ若かったといったところでしょうか。

第1曲目はリュッケルトの詩、1822年の作と言いますから詩人の方はまだ30代の作品、かなり観念的に書いたところもあるのでしょうが、肉体は老いたと言えども、まだ青春と愛を諦めてはいない心意気がほんのりとユーモラスに描き出されているところなどはなかなかに面白く、シュトラウスの技巧的なメロディもまだ生々しさの残照が残っていて一筋縄ではいかない味わいです。「バラの騎士」で自分の老いをしみじみと感じ入る元帥夫人の哀しみも連想させながら...

なお、この詩には若きシューベルトも曲を付けておりますが(D 788)、最後の1節は省略して曲をつけています。

( 2012.09.17 藤井宏行 )


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