TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ


Von der Hochzeit zu Kana   Op.27-9  
  Marienleben
カナの婚礼のこと  
     マリアの生涯

詩: リルケ (Rainer Maria Rilke,1875-1926) オーストリア
    Das Marien-Leben 9 Von der Hochzeit zu Kana

曲: ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


Konnte sie denn anders,als auf ihn
stolz sein,der ihr Schlichtestes verschönte?
War nicht selbst die hohe,großgewöhnte
Nacht wie außer sich,da er erschien?

Ging nicht auch,daß er sich einst verloren,
unerhört zu seiner Glorie aus?
Hatten nicht die Weisesten die Ohren
mit dem Mund vertauscht? Und war das Haus

nicht wie neu von seiner Stimme? Ach
sicher hatte sie zu hundert Malen
ihre Freude an ihm auszustrahlen
sich verwehrt. Sie ging ihm staunend nach.

Aber ja bei jenem Hochzeitsfeste,
als es unversehns an Wein gebrach,-
sah sie hin und bat um eine Geste
und begriff nicht,daß er widersprach.

Und dann tat er's. Sie verstand es später,
wie sie ihn in seinen Weg gedrängt:
denn jetzt war er wirklich Wundertäter,
und das ganze Opfer war verhängt,

unaufhaltsam. Ja,es stand geschrieben.
Aber war es damals schon bereit?
Sie: sie hatte es herbeigetrieben
in der Blindheit ihrer Eitelkeit.

An dem Tisch voll Früchten und Gemüsen
freute sie sich mit und sah nicht ein,
daß das Wasser ihrer Tränendrüsen
Blut geworden war mit diesem Wein.

彼女に一体他に何ができたであろうか 彼のことを
誇ること以外 彼女の質素さを美しく飾った彼を?
気高き 偉大さにも慣れた
夜でさえ我を忘れたようになったではないか そこに彼が現れたならば?

そうではなかったろうか かつて彼が行方知れずになったことも
彼の栄光を高めたのでは?
賢者たちもその耳に
口を取り替えたではなかったか?そして家さえもが

新しくなったようではなかったか 彼の声のせいで? ああ
確かに彼女は百度も
自分の喜びが彼に向かって輝き出すのを
抑えていた 彼女はただ彼に従ったのだ 驚嘆しながら

だがしかし かの婚礼の宴の折に
思いがけずワインが足りなくなったとき
彼女は彼を見やり 仕草で手配を乞うた
気がつかなかったのだ 彼がそれを拒むわけを

結局彼はそれを為したが 彼女が悟ったのはずっと後のことだった
自分が彼を彼の道へと追いやったのだということを
今や彼は本当に奇跡を行う者となったのだ
そして生贄となる運命は完全に定められたのだ

止め難いことと そう それは既に書き記されていたのではあるが
だがそれはその時すでに準備されていたことであったのだろうか?
彼女が:彼女こそがそれを招き寄せたのだ
自らの虚栄の盲目さの故に

果物や野菜であふれるテーブルのそばで
彼女は喜びを皆と分かちあい そして気がつかなかったのだ
彼女の涙の水が
このワインによって血と変わるのだということに


ヨハネの福音書に書かれたイエスの最初の奇跡、リルケもこれを15篇の詩の中に取り上げました。マリアが関わるイエスの行状としては落とせない重要なワンシーンというところでしょうか。もっともキリスト教を信仰していない私のような者からすると、水を酒に変えるというのは何とも俗っぽい、他愛ない奇跡のように思えてしまいます。もっともこの他愛なさからやがて受難にまで至るイエスの行く道のひとつひとつが信仰者にとってはかけがえのないものなのでしょうね。
ヒンデミットの付けた音楽は前の曲同様、非常に力強く始まります。婚礼の宴のせわしなさを表すかのようなピアノの前奏はとりわけインパクトが強く、さすがヒンデミットという斬新な響きが印象的。そしてこれも後半は静かに、内省的な響きの中に曲を閉じます。次の曲がもう受難を前にした重い曲ですから、ここで情景は大転換している、その転換の重要さに見合った傑作といえましょう。

( 2012.07.28 藤井宏行 )


TOPページへ  更新情報へ  作曲者一覧へ