Die stille Lotosblume Op.13-6 Sechs Lieder |
しとやかな蓮の花 6つの歌 |
Die stille Lotusblume Steigt aus dem blauen See, Die Blätter flimmern und blitzen, Der Kelch ist weiß wie Schnee. Da gießt der Mond vom Himmel All' seinen gold'nen Schein, Gießt alle seine Strahlen In ihren Schoß hinein. Im Wasser um die Blume Kreiset ein weißer Schwan Er singt so süß,so leise Und schaut die Blume an. Er singt so süß,so leise Und will im Singen vergehn. O Blume,weiße Blume, Kannst du das Lied verstehn? |
しとやかな水蓮の花が 青い湖水から伸びている その葉のしずくは煌き輝いて うてなは雪のように白い 天上の月は注ぐ 黄金色の光のすべてを その輝きをすべて注ぎこむ 彼女の中を狙いすまして その花の咲く水面に 一羽の白鳥が円を描いている 彼は甘くひそやかに歌う そして花を見つめる 彼は甘くひそやかに歌う そして歌いつつ死のうとしている おお花よ、白い花よ おまえにその歌は届いているのか? |
ロベルトの妻クララの歌曲です。当時世界でも指折りの大ピアニストであった彼女は作曲も手がけ、歌曲は30曲近くが残されているようです。この作品は、ヴォルフが作曲したスペイン歌曲集の独語訳者でもある詩人エマヌエル・ガイベルの詩により1842年7月に作曲されました。月夜の蓮の花と言えば、ロベルトが2年前に作曲したハイネの詩による名曲「蓮の花」がすぐに思い出されます。おそらくクララもそれを念頭において、この詩に作曲したのでしょう。クララの作曲は、寄せる波をピアノが表現する穏やかなものです。何度も耳にするとなかなか愛着の持てる佳曲と思います。
ハイネの詩は月に恋する蓮の花が描かれていましたが、ガイベルの詩は月の光によって輝く蓮の花に思いを寄せつつ死んでいく白鳥が描かれています。
ふと思ったのですが、ハイネにしてもガイベルにしても、月夜に咲く蓮の花を描いていますが、わが国で知られる蓮の花は中国原産で、夜明けとともに開花して夕方に花を閉じます。ヨーロッパに蓮の花がもたらされたのは18世紀ごろ中国からということですが、ハイネの詩に描かれているように日中花を閉ざし、月夜に開花する品種があるのでしょうか。調べてみると、睡蓮の熱帯種には「夜咲き睡蓮」という種がありました。そしてヨーロッパでは蓮と睡蓮の区別は明確でなく、両者の総称がロータス”Lotos”(「蓮」)であるようです。ハイネやガイベルの詩の”Lotosblume”が「夜咲き睡蓮」なのかどうか、もう少し調べてみたいと思います。
演奏は、アシュケナージの伴奏によるボニーの歌という豪華な録音があり(デッカ)、期待通りの名演を聞かせてくれます。この演奏はロベルトの作品と組み合わされたCDに入っていますが、もうひとつ中国のソプラノ、ラン・ラオによる歌曲全集があります(アルテ・ノヴァ)。全集と言ってもCD1枚の廉価盤で、美しい声と素直な歌唱が楽しめます。ボニーの取り上げていない歌曲にも良い作品がありますし、日本盤には喜多尾道冬氏による対訳もついていますので資料的にも貴重です。歌曲ファンなら是非とも両方手に入れることをお勧めします。
( 2004.05.26 甲斐貴也 )