昼の夢 |
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薔薇(そうび)はなさく かげに伏して 詩(うた)をまくらに 仰ぎみれば うたのこころは 花に入りて 笑(え)むよ花びら 笑むよ笑むよ 笑みて笑みて うたとなるよ 薔薇はほほえむ かげに伏して 詩をいだきて 眠りみれば はなのすがたは 夢に入りて 舞うよ乙女の 舞うよ舞うよ 舞いて舞いて 恋となるよ 乙女まいまう そでに触れて 恋をうたいつ 我も舞えば ゆめのこころは 姿ぬけて 散るよもろとも ちるよちるよ ちりてちりて はなとなるよ |
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1911年、まだ若き作曲家 梁田貞の手になるたいへん美しい歌曲です。当時近藤朔風の訳で一世を風靡していたグノーのセレナーデ「夜の調べ」に触発されて書かれたとも言われており、確かに曲想には聴いていても通じるものがあるように感じられます。当時はかなり良く取り上げられた曲のようですが、今や詩の言葉の古さもあるでしょうか、ほとんど知られることもないようです。私も戦後はじめの頃にオペラの舞台で活躍されていたプリマドンナ、大谷洌子さんが愛唱歌集の録音に入れていたのを聴いたのが唯一です。
息の長いメロディはあまり日本の歌を感じさせず、大正ロマンの味わいを先取りしている感じ。詩の高安月郊 (1869-1944)は詩人で劇作家、イブセンを初めとする西洋の戯曲を紹介する他、日本でも新歌舞伎の脚本なども書いて活躍されていた人なのだそうです。
( 2012.05.13 藤井宏行 )