Der gynger en Båd på Bølge Op.69-1 Fem Digte af Otto Benzon |
一艘の小舟が波の上で揺れる オトー・ベンソンの詩による5つの歌曲 |
Der gynger en Båd på Bølge, og der er kun én ombord, Men det er den fagreste Pigelil på hele den fagre Jord. Men Slangen,den slår sine Bugter. Lyse så er hendes Lokker som agrenes gyldne Strå, Klare så er hendes Øjne Og milde som Himmelens Blå. Rød som den blussende Rose så er hendes runde Kind, Ren som den rislende Kilde er hendes Tanke og Sind, Og hendes Latter den er som Fuglens Kvidren ved Morgengry Og hendes Smil som den glade Sol, der bryder igennem Sky. Ja hun er den herligste Pigelil på hele den herlige Jord Og hun får såvist ikke længe Lov at være ene ombord. For Slangen den slår sine Bugter. |
一艘の小舟が波の上で揺れる そこにはたったひとりだけが乗っている それは一番きれいな女の子 この国中を見渡しても だけどヘビがいる、とぐろを巻いて 彼女の髪は明るい まるで金色の麦畑のようだ 彼女の瞳は澄んでいる まるで天の青さの中にあるようだ 輝くバラのように赤いのは 彼女のふくよかな頬 湧き出す泉のように澄んでいるのは 彼女の思いと心 笑い声は小鳥のよう 夜明けにさえずっている 笑顔は輝く太陽のよう 雲を破って降り注ぐ そう 彼女は一番美しい乙女 この美しい国の中でも一番 だけどそう遠くないうちに もうひとり乗せるんだろう だってヘビがいる、とぐろを巻いて |
グリーグの歌曲の中でもおそらく1、2を争う美しいメロディの前奏に導かれて、小舟にたったひとりで乗っている可愛い少女の描写が情熱的に歌われます。が、一呼吸置いてがっかりしたように「ヘビがいる」のフレーズが歌われます。あまりに唐突な蛇の登場に初め私は自分の訳が間違っているのかと思いずいぶん色々調べましたが、やはりここは少女とヘビが小舟の中に同乗しているということで良いようです。
ベンソンの原詩では、各節のおわりに「ヘビがいる」と繰り返しているのですが、グリーグは最初と最後の節だけにして、間の3節は彼女の可愛らしさだけを描写し、音楽をぐいぐいと盛り上げていきます(上記の歌詞もそれに従って記述しました)。それだけに最後の「ヘビがいる」が何とも強烈にこの歌のスパイスとなって効いています。
まるでユングの夢分析のような奇妙な情景ですが、求めれども手の届かない憧れの少女ということなんでしょうか。よく分かりませんが不思議です。
1900年作曲のグリーグ最後の歌曲集、それぞれ5曲ずつからなる作品69と作品70は、すべてデンマークの詩人オトー・ベンソンの詩による歌曲です。美しい情景描写の詩もあれば、アイロニカルな人生訓を語っているものもあり、こんな感じの不思議な幻想を紡ぎだすものもあれば割とベタな人生のひとこまの描写もありということで大変多彩な詩のセレクションですし、グリーグも最晩年の作品とは思えない才気あふれる音楽で、様々な表情を聴かせてくれます。あまり世評は高くない歌曲集のようですが、私は大好きでよく聴いています。
( 2012.04.06 藤井宏行 )