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Geburt Mariä   Op.27-1  
  Marienleben
マリアの誕生  
     マリアの生涯

詩: リルケ (Rainer Maria Rilke,1875-1926) オーストリア
    Das Marien-Leben 1 Geburt Mariä

曲: ヒンデミット (Paul Hindemith,1895-1963) ドイツ   歌詞言語: ドイツ語


O was muß es die Engel gekostet haben,
nicht aufzusingen plötzlich,wie man aufweint,
da sie doch wußten: in dieser Nacht wird dem Knaben
die Mutter geboren,dem Einen,der bald erscheint.

Schwingend verschwiegen sie sich und zeigten die Richtung,
wo,allein,das Gehöft lag des Joachim,
ach,sie fühlten in sich und im Raum die reine Verdichtung,
aber es durfte keiner nieder zu ihm.

Denn die beiden waren schon so außer sich vor Getue.
Eine Nachbarin kam und klugte und wußte nicht wie,
und der Alte,vorsichtig,ging und verhielt das Gemuhe
einer dunkelen Kuh. Denn so war es noch nie.

おお それは何と天使たちにとって大変なことだったろう
人が泣き声を出すような、突然の歓声をあげずにいることが
彼らは知っていたのだ、その夜こそ かの御子の
母となられるお方が生まれるということを、唯一にして、やがて現れられる御子の

揺れながら彼らは言葉を発することなくある方角を示した
そこにはただ、ヨアヒムの屋敷があるばかり
ああ、彼らは自らの内とそしてこの空間の中に清らかなものが満ちているのを感じてはいたが
誰も彼のもとに降りることはできなかった

なぜなら夫婦は大騒ぎの前に我を忘れていて
近所の女が訳知り顔でやっては来たがなすすべを知らず
老人は用心深く、外へ出て鳴き声を抑えたのだった
一頭の黒い雄牛の鳴き声を、こんなことはかつてなかったのだが


リルケが1913年に書いた15篇からなる詩集「マリアの生涯」は、イエス・キリストの母であるマリアの誕生から死までのエピソードを伝承に忠実に描き出したものです。「カナの婚礼」のように新約聖書に書かれたものもありますが、もともとキリスト教にはマリア信仰というものはなく、のちの民間信仰と混じり合ってマリア崇拝というのが出てきたのでしょう。何やら素朴極まりないお話もあって非常に興味深い詩集です。もっとも今やキリスト教にあっても聖母マリアの位置付けは非常に重要なものとなっており、実はこのマリアの誕生日とされる9月8日をはじめ、彼女がイエスを懐妊した日や亡くなった日などもカトリックでもプロテスタントでも祝日として祝うようになっています。
さて、このリルケの書いた15篇すべてに、ドイツ近代の作曲家パウル・ヒンデミットが曲をつけて鮮烈な歌曲集にしています。まだ前衛の旗手として活躍していた20代後半である1922-23年に書かれたのですが、だいぶ後になっての1948年に改訂版が出ています。初期のとんがった、演奏家の歌いやすさを度外視した表現意欲に溢れたものが25年を経て穏当に、非常に聴きやすいものになりましたので、現在ではほとんどの場合に1948年の改訂版の方が取り上げられています。確かに古典的な佇まいを強調した演奏効果もこの改訂版の方が高く、15曲を通しての聴きごたえもあるように思えますが、1920年代の若さあふれる原典版の鮮烈さも捨てがたく、グレン・グールドのようにこちらの版の方をより高く評価している音楽家もいます。
彼の録音したSony盤、グールド自身の解説で譜例付きの詳細な両版の比較がついていますので一見の価値はあるでしょう。

導入となる第1曲、讃美歌のような古雅な旋律に導かれて、静かにマリア誕生の風景が歌われます。改訂版の方がよりみやびな感じでまとまってはおりますが、原典版の尖鋭な伴奏も捨てがたく、ぜひとも聴き比べてみて頂けると良いかと思います。

( 2011.09.04 藤井宏行 )


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