値(あ)ひがたき智恵子 智恵子抄 |
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智恵子は見えないものを見、 聞えないものを聞く。 智恵子は行けないところへ行き、 出來ないことを爲(す)る。 智恵子は現身(うつしみ)のわたしを見ず、 わたしのうしろのわたしに焦がれる。 智恵子はくるしみの重さを今はすてて、 限りない荒漠の美意識圏にさまよひ出た。 わたしをよぶ聲をしきりにきくが、 智恵子はもう人間界の切符を持たない。 |
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前の詩に引き続いて昭和12年7月(29番目の詩)、前の鮮烈な情景に対し、こちらはひたすら内省的です。それを受けて音楽も重く、地味なものとなりました。光太郎の心の絶叫がびんびんと響いてきます。
( 2011.06.25 藤井宏行 )